2020年06月19日
東京の右半分が水に浸かった光景を2019年夏に多くの人が見た。現実ではなく、映画館のスクリーンの上に映し出された光景だったが――。
新海誠『天気の子』の終盤で3年降り続く雨によって東京の沿岸部は完全に水没していた。浜松町辺りは山手線の代わりに水上バスで通勤・通学しているようである。そんなアニメが予言していたかのように『天気の子』が公開された7月19日の翌日から各地で豪雨災害が頻出する。そして台風の当たり年にもなった。9月9日に関東に上陸した台風15号では特に千葉県の被害が大きかった。そして10月1日にマーシャル諸島で発生した低気圧は6日に南鳥島近くで台風19号に成長。強い勢力を維持したまま12日19時前に伊豆半島に上陸、関東地方から福島県を縦断した。
この台風19号一過のタイミングで江戸川区役所を訪ねた。ちなみに江戸川区では区役所も海抜マイナス1メートル、海面より低い場所に建つ。死者1077名、行方不明者853名を出したカスリーリン台風上陸時の洪水の記録や現在の荒川の水位などが表示されている巨大な電光掲示装置が役所前に用意されている。
取材に対応した危機管理室防災危機管理課職員との一問一答を再現してみる。
「これが最初というわけではありません。2016(平成28)年9月に発足した江東5区広域避難推進協議会で協議し、2018(平成30)年の8月に江東5区(江戸川区、墨田区、江東区、足立区、葛飾区)のハザードマップを作っていますが、その時にもこの表現を使っていました。江東5区は土地が低く、浸水するのでその外へ避難して欲しいという意味でした。その後、江戸川区はハザードマップを作った時にその表現を踏襲しましたが、5区の中で使うかどうかはそれぞれに任されています」
――自治体の使う言葉としては斬新でしたから話題になりました。
「2008年に前の版のハザードマップを作った時には計画規模の降雨量(例えば一級河川の主要区間においては、概ね 1/100~1/200 年の確率で降るかもしれない降雨量のこと)を想定していたのですが、その後、水防法が改正され、想定しうる最大の降雨量で浸水想定区域図を作るということに変わりました。以前は川の洪水だけを扱っていましたが、東京都が高潮の浸水想定区域図も作ったので、それも重ね合わせて総合的な水害ハザードマップとして作ったのです。区の面積の7割が水面下の海抜なので、大きな水害の場合、自区の中で避難所を持つのは無理だということになりました」
――無理なのですか?
「浸水の時間が1週間から2週間続きます。早く水が引くのであれば、自分のマンションの上層階や近くの高い建物に逃げる垂直避難という手法もありますし、スーパー堤防の高台、市川の国府台の台地に避難するような考え方もあります。ただ、浸水する期間が1~2週間にもなるようですと、電気が使えない、トイレが使えない状態での避難は難しい。感染症が広がったりなど、二次被害も起きるかもしれない。ということから5区協議会では浸水のエリアの外へという広域避難を推奨するようになりました」
――なぜ、そんなに長く水が引かないのでしょう?
「海面、川の水面より地面が低いですから入ってしまった水は人工的に抜かない限り溜まり続けます。普段でも下水はポンプで排水していますが、ポンプ設備が浸水してしまうと使えなくなる。ポンプ車などを投入して区外から排水しないと水は引けません。いつ抜けるかは排水能力との兼ね合いで決まりますが、おそらく1〜2週間はかかるでしょう」
――その間の避難先になる区外の施設などは決まっているのでしょうか?
「5区外で受け入れてもらうための広域避難場所は今の段階では用意できていません。区内では避難できないという状況をいち早く区民に知らせるために、わかった情報をすぐに出しました。広域的な避難場所や避難方法については都と国にお願いして検討を始めてもらっています」
――台風19号のときにも「ここにいてはダメ」と指示したのですか?
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください