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水害に強い東京をつくるために――「ゼロ」から考える未来像

武田徹 評論家

江戸川区に聞く「ここにいてはダメ」の理由

東京都江戸川区が20195月、全世帯に配布した水害のハザードマップ=東京都江戸川区提供拡大東京都江戸川区が2019年5月、全世帯に配布した水害のハザードマップ=提供・東京都江戸川区
――江戸川区のハザードマップで使われた「ここにいてはダメです」「逃げてください」という表現はずいぶん踏み切った印象がありました。

 「これが最初というわけではありません。2016(平成28)年9月に発足した江東5区広域避難推進協議会で協議し、2018(平成30)年の8月に江東5区(江戸川区、墨田区、江東区、足立区、葛飾区)のハザードマップを作っていますが、その時にもこの表現を使っていました。江東5区は土地が低く、浸水するのでその外へ避難して欲しいという意味でした。その後、江戸川区はハザードマップを作った時にその表現を踏襲しましたが、5区の中で使うかどうかはそれぞれに任されています」

――自治体の使う言葉としては斬新でしたから話題になりました。

 「2008年に前の版のハザードマップを作った時には計画規模の降雨量(例えば一級河川の主要区間においては、概ね 1/100~1/200 年の確率で降るかもしれない降雨量のこと)を想定していたのですが、その後、水防法が改正され、想定しうる最大の降雨量で浸水想定区域図を作るということに変わりました。以前は川の洪水だけを扱っていましたが、東京都が高潮の浸水想定区域図も作ったので、それも重ね合わせて総合的な水害ハザードマップとして作ったのです。区の面積の7割が水面下の海抜なので、大きな水害の場合、自区の中で避難所を持つのは無理だということになりました」

――無理なのですか?

 「浸水の時間が1週間から2週間続きます。早く水が引くのであれば、自分のマンションの上層階や近くの高い建物に逃げる垂直避難という手法もありますし、スーパー堤防の高台、市川の国府台の台地に避難するような考え方もあります。ただ、浸水する期間が1~2週間にもなるようですと、電気が使えない、トイレが使えない状態での避難は難しい。感染症が広がったりなど、二次被害も起きるかもしれない。ということから5区協議会では浸水のエリアの外へという広域避難を推奨するようになりました」

――なぜ、そんなに長く水が引かないのでしょう?

 「海面、川の水面より地面が低いですから入ってしまった水は人工的に抜かない限り溜まり続けます。普段でも下水はポンプで排水していますが、ポンプ設備が浸水してしまうと使えなくなる。ポンプ車などを投入して区外から排水しないと水は引けません。いつ抜けるかは排水能力との兼ね合いで決まりますが、おそらく1〜2週間はかかるでしょう」

――その間の避難先になる区外の施設などは決まっているのでしょうか?

 「5区外で受け入れてもらうための広域避難場所は今の段階では用意できていません。区内では避難できないという状況をいち早く区民に知らせるために、わかった情報をすぐに出しました。広域的な避難場所や避難方法については都と国にお願いして検討を始めてもらっています」

台風19号の接近で、東京都江戸川区では早朝から土嚢(どのう)を求める人たちが集まった=2019年10月12日、東京都江戸川区拡大台風19号の上陸で、東京都江戸川区では早朝から土嚢(どのう)を求める人たちが集まった=2019年10月12日、東京都江戸川区

――台風19号のときにも「ここにいてはダメ」と指示したのですか?

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筆者

武田徹

武田徹(たけだ・とおる) 評論家

評論家。1958年生まれ。国際基督教大大学院比較文化専攻博士課程修了。ジャーナリストとして活動し、東大先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大人文学部教授を経て、17年4月から専修大文学部ジャーナリズム学科教授。専門はメディア社会論、共同体論、産業社会論。著書に『偽満州国論』、『流行人類学クロニクル』(サントリー学芸賞)、『「核」論――鉄腕アトムと原発事故のあいだ』『戦争報道』、『NHK問題』など。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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