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吉村知事の礼賛一色、多様性に欠けるワイドショーのコメンテーター

テレビ制作者からは、専門家でないコメンテーター起用に疑問の声

川本裕司 朝日新聞社会部記者

拡大記者会見する吉村洋文・大阪府知事。テレビ出演が目立っている=2020年5月2日、大阪府庁

 民放テレビ局の報道記者は「ウイルス特需があった」と言う。ビデオリサーチによる首都圏でのインターネット調査の結果によると、世帯のテレビ視聴量が3月末に入って前年より15~20%、4月中旬には20~30%増えた。4月中の総合視聴率(個人全体)の上位30番組では、ニュース、報道・情報が10番組を数え、前年より倍増した。情報番組やワイドショーの内容は新型コロナウイルス一色になったが、各局の番組の論調はいずれも似通うという傾向を示した。

あふれる礼賛、存在感増した吉村知事

 5月5日朝のフジテレビ「とくダネ!」で、俳優の山下真司氏は「吉村さんにリーダーシップを取ってもらいたいなあ。誰よりも説得力がある」と絶賛した。政府に休業補償と出口戦略の基準設置をはっきり求める吉村洋文・大阪府知事は存在感が増していた。

 吉村知事は5日、休業と外出自粛の解除に向けて大阪府の三つの数値基準を設定した「大阪モデル」を明らかにし、さらに脚光を浴びた。6日の日本テレビ「スッキリ」でも、コメンテーターの宮崎哲弥氏(評論家)や松田丈志氏(元五輪競泳選手)、佐藤昭裕氏(日本感染症学会専門医)が吉村知事への高い評価をそれぞれ口にした。

 吉村知事に対してコメンテーターから「信頼できる」という礼賛があふれる中、数少ない異論をはさんだのは、TBS「ひるおび!」にコメンテーターとして6日に出演した政治ジャーナリスト田崎史郎氏だった。ただ、それも「大阪府は(すでに)達成していることを目標にしている。目ざすべきものが目標のはずだ」と皮肉っぽく話したのが精いっぱいだった。賛否があった休業要請に応じないパチンコ店名の全国初の公表を含め、吉村知事に対する意見の多くは印象論にとどまり、たくさんのコメンテーターがいながら、多様性はあまり見られなかったように思えた。

 5月23日にあった毎日新聞と社会調査研究センターの世論調査では、「新型コロナウイルス問題への対応で最も評価している政治家」として、吉村知事が168人(回答者505人)と断然トップだった。2位の小池百合子東京都知事の44人、3位の安倍晋三首相の30人を大きく引き離した。

 5月以降に動きが出てきたのは、ワクチンの開発と治療薬の承認だった。米ファイザー社と独バイオ企業ベンチャーが9月の認可を目ざしワクチンの臨床実験を始めたというニュースを、7日の「グッとラック!」(TBS)が取り上げた。コメンテーターの小林寅喆・東邦大教授(感染制御学)が「新型コロナウイルスでは多くの人が使うので、副作用を慎重に検討しなければいけない」と指摘した。他のコメンテーター3人(画家、元女子アナ、IT企業取締役)は発言しなかった。番組としての賢明な進行に思えた。

 抗ウイルス薬「レムデシビル」が新型コロナウイルスの治療薬として7日、厚労省から特例承認された。レムデシビルは副作用として急性腎障害、肝機能障害がある。新型コロナの治療薬はすぐにでも待ち望まれている。しかし、副作用による薬害は避けなければいけないジレンマがある。やはり治療薬として注目されている抗インフルエンザ薬「アビガン」の承認の利点と問題点の本質については、論座に掲載された川口浩・東京脳神経センター部長の「アビガンの『期限付き早期承認』を強く要望する」(2020年5月9日)が、治験の科学的厳密性と短期間で結果を求められるプレッシャーという相克について深く掘り下げた初めての論考のように思えた。

 感染症や薬剤について詳しくないコメンテーターは学校の休校といった身近なことには語れても、生命にかかわるテーマについてにわか準備で的確な意見を期待することにそもそも無理がある。ジャーナリストのコメンテーターは事実関係を紹介したり問いを発したりすることはできるだろう。しかし、薬害のリスクを踏まえたうえでワクチンや治療薬を承認すべきかどうかといった高度な専門性を求められる論評を責任を持ってできるとは思えない。

 2011年の東京電力福島第一原発事故の際、ワイドショーなどでも多くのコメンテーターが、国内で前例のない原発の重大事故の解説と見通しを語った。ところが、

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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを経て、19年5月から大阪社会部。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。

 

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