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「キモい」という言葉とナンパ、どちらが〝暴力〟なのか

自分勝手な期待を相手に押しつけて勝手に傷つき、一方的に暴力をふるう男たち

赤木智弘 フリーライター

 徳島市で35歳の男性が、女子高生などに怪我をさせ、傷害の疑いで逮捕されるという事件があった。

 報道によると、男性が3人組の女子高生に「家に来ないか」などと声をかけたが「キモい」と言われると激高し、女子高生を追いかけ、腕を掴んだり髪を引っ張るなどしたという。また悲鳴を聞いて止めに入った50代の男性も殴るなどしたという。

 要は、男性はナンパをしたが拒絶され、その腹いせに女子高生に暴力を振るったということだ。これは誰がどう考えても男性が一方的に悪いし、女子高生は完全に被害者としか言いようがない事件である。

 ところが、この事件に対して不思議なことを言う人たちが現れた。「加害者は悪いのはもちろんだが、キモいと言った女子高生も悪い」というのである。彼らが言うには「「キモい」という侮辱的かつ、攻撃的な言葉を使ったから殴られた。相手を激高させないように言葉を選んで自衛すべきだ」ということらしい。

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幼稚な暴力男性に対する擁護

 もちろん、こうした主張に対して「暴力をふるった男性を擁護するのか」という反論が行われている。しかし彼らの中では「自分たちは自衛のためのアドバイスをしただけ」ということになっているのである。

 さて、結論を言ってしまえば彼らの主張は自衛のアドバイスとしても一切成立しておらず、かつ幼稚な暴力男性に対する擁護でしかない。それをこれから説明していく。

 まず「自衛のためには〝暴力〟的な言葉を使うべきではない」というからには「キモいという言葉を使われなければ暴力をふるわれることはなかった、またはその可能性は少なくすることができた」と考えているのだろう。しかしそれは本当だろうか?

 ナンパされて怖い目にあった女性の経験談などでよく出てくるのは「無視をしたら『ブス! ババア!』と暴言を浴びせかけられた」という証言だ。それまでナンパのために調子のいい言葉を使っていた男が、突然豹変して暴力的な言葉を投げかける。女性はただ道を歩いていただけなのに、どうしてそのような暴言を受けなければならないのだろうか。

 また、無視した結果、つきまとわれたという話も少なくない。家の近くだったために住所を知られるわけにもいかず、男が諦めるまでコンビニなどで時間を潰すしかなかったなどという話もある。

 この場合は「無視をしなければ良かった。無視をしなければつきまとわれた」ということになるのだろうか。

 無視がダメなら、相手を怒らせないように愛想を良くして上手く言葉でかわせばいいということだろうか。それはそれで「ハッキリ拒絶されないからOK」と認識する男性もいるので問題だ。

 先日、有名編集者のセクハラ騒ぎがあり、女性ライターがなんとか編集者の機嫌を損ねないように性的なアプローチをかわす、生々しいLINEが流出していた。この件ではなんとか女性ライターは編集者を部屋に上げるだけで済んだようだが、かわしきるのもそう簡単ではない。

 そして当然のように、セクハラを受けた女性ライターに対して「ハッキリ断らなかったのが悪い」「女性ライターもその気にさせている」という批判もなされた。

 結局、女性はナンパをしてくる男性に対し、キッパリ拒絶をしようと、無視をしようと、愛想良く対応しようと、男性の暴力に晒される危険があることに変わりはない。

 さらに、たとえどのような対応をしようとも、キッパリ拒絶したのが悪い、無視したのが悪い、愛想良く対応したのが悪い、と批判してくる「無責任な外野」は現れるのである。

 外野が放つ「僕の考えた自衛のためのアドバイス」ほど無責任で無意味なものはないのである。

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筆者

赤木智弘

赤木智弘(あかぎ・ともひろ) フリーライター

1975年生まれ。著書に『若者を見殺しにする国』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』、共著書に『下流中年』など。

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