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[42]世界中の路上生活者を支えた猫の死

「反貧困犬猫部」と「ボブハウス」

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

もし東京だったら…

 同時に私が気になるのは、もし路上生活の青年と野良猫が出会ったのが日本だったら、このようなストーリーが成り立っただろうか、という点である。

 詳しくは映画『ボブという名の猫』をご覧いただきたいが、ボウエンさんがボブと一緒に暮らすことができたのは、彼が「ハウジングファースト」型のホームレス支援策を利用できたからである。

 「ハウジングファースト」とは、住まいを失った生活困窮者に無条件で住宅を提供する支援の手法で、これにより当初、薬物依存から抜け切れていなかったボウエンさんも、ボブと共に暮らせる住まいを手に入れることができた。

 もし彼が東京で路上生活をしていたら、猫と一緒に暮らすことはできなかったであろう、と私は思う。

 東京では「ハウジングファースト」ではなく、「施設ファースト」型の支援がほとんどなので、行政の窓口で相談をした際に、猫と暮らすことはあきらめてくださいと説得されるからだ。

 また、彼が私たちのような「ハウジングファースト」型の支援を実践しているNPOと出会えたとしても、ロンドンとは違い、東京ではペット可の賃貸住宅が少ないので、私たちとしても対応に苦慮してしまっていただろう。

 実は今、このことが私たちの前に大きな課題となって、立ちはだかっている。

 コロナ禍の影響で、犬や猫といったペットとともに住まいを失う人が増えつつあるからだ。

 今年3月、コロナ禍による貧困拡大を踏まえ、首都圏の30以上の団体が集まり、「新型コロナ災害緊急アクション」というネットワークが結成された。

 私が代表を務めている「つくろい東京ファンド」も、この「緊急アクション」の活動に参加して、主に住まいを失った生活困窮者への緊急支援に取り組んでいる。

 今回の経済危機の特徴として、これまで生活に困窮したことのない「中所得者」以上の層の人がコロナの影響で収入が激減し、家賃を滞納したり、住居を喪失したりするという事態が生じているという問題がある。その中には、家族同然に一緒に暮らしてきた犬や猫とともに生活に困窮している人も少なくない。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困パンデミック』(明石書店)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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