今こそ、防災体制の弱点の点検と改善を
2020年07月06日
熊本県南部が記録的な豪雨に襲われ、7月5日までに22人の死亡が確認され、氾濫、決壊した球磨川流域では6100戸が浸水した。
この先も、線状降水帯や勢力の強い台風の発生など、荒ぶる自然を前に、風水害への警戒をいっそう強める必要がある。
新型コロナウイルスが収束しないなか、今年は1人1人がどうやって災害と感染症の両方から身を守るか、が問われる。とりわけ心配なのは、「3密」のおそれがある避難所である。クラスターを避けるため、国は緊急時には多くの避難所をもうけるよう自治体に呼びかけ、住民には自宅での避難を検討するよう求めている。逃げるか、とどまるか。最後は住民自身が賢く判断するしかない。
球磨川が氾濫し、広範囲で浸水した熊本県では、4日午後1時現在、105カ所の避難所に約450人(内閣府)が身を寄せた。同県人吉市の避難所では、感染防止のため、受付で職員が避難者の体温を測定し、体調の聞き取りにあたった。
ただ、世帯同士の距離を保つために、避難所内は間仕切りをおくなどしスペースをあけているため、一部には廊下なども使わざるを得ない状況だ。家を失った人は多く、避難者が増えれば、さらに対応が難しくなる。
内閣府によると、日本には自治体が指定する避難所が計約7万8千カ所ある。うち4割が学校で、多くが体育館だ。
これまで各自治体が見積もってきた避難所での1人あたりの面積は、1畳分(約1.7平方メートル)だった。感染防止のためには1人4平方メートルが必要とされる。ある自治体が事前の訓練で床にテープをはって計算し直したところ、これまで200人が入れた体育館に、半分の100人弱しか入れないことがわかった。もっと少なくなる、という自治体もあった。
内閣府はくりかえし言う。
「自治体はホテルや旅館にも協力を求め、可能な限り多くの避難所を開設してほしい。避難とは『難を避ける』ことで、避難所に行くことだけが避難ではない。住民は親戚や知人宅へ行くことや、自宅が安全なら在宅避難をお願いする」
一見、妥当な対処法に思える。だが、地方には適当なホテルや旅館がない自治体もある。北海道のある町の危機管理担当者は、管内に旅館はあるが、海沿いや浸水想定区域の中にあるため、避難所として使えないと嘆いていた。
親戚や知人宅へ、という点もひっかかる。
誰もが頼れる人をもつわけではない。お年寄りや子どもがいる家庭なら、気もつかうだろう。在宅避難というが、本当に自宅が安全か、ハザードマップなどを事前に見て確認することを、よほど徹底しておく必要がある。
気をつけなければならないのは、土砂災害警戒区域や川沿いなど、危険な場所に住んでいる人が、感染を恐れて自宅にとどまり、逃げ遅れることだ。危険が迫れば躊躇なく避難所へ行く。難を避ける基本はこれまでと変わらないことを、改めて周知しておかなければならない。
今回の九州の雨は、同じ場所で積乱雲が次々と発生する線状降水帯によってもたらされた。気象庁によると、日本近海の海面水温は平年より高いことなどから、50年に1度クラスの雨は全国どこでも起きる可能性があるという。
いえることは、災害を近年経験した自治体は、熱心に訓練などをし、それなりに備えていることだ。パーテーションなどで避難所内を区切ったり、段ボールベッドや大量の消毒液などを素早く導入できたりすれば、感染防止に役にたつ。
国に求めたいのは、準備できていない自治体がどこなのかを早めに把握し、そこに対してプッシュ型で手順を示し、必要な備えを行き渡らせることである。
日本は災害大国でありながら、避難所はとても先進国といえないレベルだ。そう、かねて指摘されてきた。
イタリアではキッチンカーが発災直後にやってきて、温かい食事を被災者にふるまう例がよく紹介される。
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