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新型コロナと薬物違反 問われるスポーツ界のニューノーマル(新常態)

増島みどり スポーツライター

拡大2019年の世界陸上男子100メートルで初優勝し、叫ぶクリスチャン・コールマン(中央)=池田良撮影

東京五輪陸上金メダル有力候補、資格停止の波紋

 スポーツ界も少しずつ動き始めた6月中旬、ショッキングなニュースが飛び込んできた。陸上男子100㍍で9秒76と、2019年世界ランキングトップ(世界歴代6位)の記録を持つ米国のクリスチャン・コールマン(24)が、ドーピング違反のため暫定的な資格停止処分を受けた。東京五輪同種目の金メダル筆頭候補だ。資格停止処分がもし最長2年に及んだ場合、来年の五輪には出場できない。

 世界陸連の監視機関である「インテグリティー・ユニット」の発表によると、同選手は昨年12月9日、競技会ではなく「競技会外=アウト・オブ・コンペティション」いわゆる「抜き打ち」とされる検査において、居場所情報を不正申告したという。選手は必ず、合宿日程、その際の移動の手段、滞在先のホテルなど試合以外の行動予定を全て事前に申告しなければならない。コールマンは昨年から正確な申告を怠り、12カ月間で3回検査を逃れたとして、薬物の使用と同等の処分を科せられる可能性が高い。

 ドーハで行われた世界陸上前にも同様に、居場所情報の申告漏れによって出場が危ぶまれた。しかしこの時は期間の解釈によって不問に。世界陸上で金メダルを獲得し、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)不在の短距離界のニュースターに躍り出たばかりだった。

 コールマンはツイッターに「(競技力向上のために)サプリメントや薬物を使ったことは一切ない。隠すものは何もないが、潔白を証明する機会も与えられないのか」と、不満を投稿した。しかし、度重なる居場所情報の不申告について、五輪や世界選手権など一線でメダルを争ってきた日本短距離界のレジェンド、末続慎吾(40=イーグルラン)は厳しく批判する。

 03年パリ世界陸上200㍍で日本人の短距離種目で初のメダル(銅)を獲得。08年北京五輪4000㍍リレーでは2走を務め、銀メダルを手にした。

 末続は「居場所情報を常に報告するのは、トップ選手としての義務、というよりも日常の歯磨きのように当たり前のもの。それを3回もミス(不申告)するのは、意図した検査逃れとしか思えない」と指摘する。自身も、北京で銀メダルだったジャマイカ選手の薬物違反が確定したため、11年を経た昨年、やっと真のメダルを奪還する苦い思いを味わった。早朝5時に抜き打ち検査を自宅で受けた経験もあり、居場所情報は選手にとって「アンチドーピングのスタートラインだ」と強調する。


筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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