2020年06月30日
スポーツ界も少しずつ動き始めた6月中旬、ショッキングなニュースが飛び込んできた。陸上男子100㍍で9秒76と、2019年世界ランキングトップ(世界歴代6位)の記録を持つ米国のクリスチャン・コールマン(24)が、ドーピング違反のため暫定的な資格停止処分を受けた。東京五輪同種目の金メダル筆頭候補だ。資格停止処分がもし最長2年に及んだ場合、来年の五輪には出場できない。
世界陸連の監視機関である「インテグリティー・ユニット」の発表によると、同選手は昨年12月9日、競技会ではなく「競技会外=アウト・オブ・コンペティション」いわゆる「抜き打ち」とされる検査において、居場所情報を不正申告したという。選手は必ず、合宿日程、その際の移動の手段、滞在先のホテルなど試合以外の行動予定を全て事前に申告しなければならない。コールマンは昨年から正確な申告を怠り、12カ月間で3回検査を逃れたとして、薬物の使用と同等の処分を科せられる可能性が高い。
ドーハで行われた世界陸上前にも同様に、居場所情報の申告漏れによって出場が危ぶまれた。しかしこの時は期間の解釈によって不問に。世界陸上で金メダルを獲得し、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)不在の短距離界のニュースターに躍り出たばかりだった。
コールマンはツイッターに「(競技力向上のために)サプリメントや薬物を使ったことは一切ない。隠すものは何もないが、潔白を証明する機会も与えられないのか」と、不満を投稿した。しかし、度重なる居場所情報の不申告について、五輪や世界選手権など一線でメダルを争ってきた日本短距離界のレジェンド、末続慎吾(40=イーグルラン)は厳しく批判する。
03年パリ世界陸上200㍍で日本人の短距離種目で初のメダル(銅)を獲得。08年北京五輪4000㍍リレーでは2走を務め、銀メダルを手にした。
末続は「居場所情報を常に報告するのは、トップ選手としての義務、というよりも日常の歯磨きのように当たり前のもの。それを3回もミス(不申告)するのは、意図した検査逃れとしか思えない」と指摘する。自身も、北京で銀メダルだったジャマイカ選手の薬物違反が確定したため、11年を経た昨年、やっと真のメダルを奪還する苦い思いを味わった。早朝5時に抜き打ち検査を自宅で受けた経験もあり、居場所情報は選手にとって「アンチドーピングのスタートラインだ」と強調する。
競技会外の検査の重要性は、年々増している。ロシアによる組織的な検査すり抜け工作、手口の巧妙化が明るみに出た16年のリオデジャネイロ五輪前には、過去最多とされる約1300件もの抜き打ち検査を実施。20件の違反を見つけ出した。
こうした流れからも、東京五輪が今夏行われる前提で、国内で300人もの検査員を配置する厳重な検査態勢を準備していた。五輪の延期と、新型コロナウイルスの感染拡大で、こうした検査態勢がいかに維持できるか、深刻な状況に置かれてしまった。
競技会が延期、中止となり、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください