メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

人々を惑わせた新型コロナ禍でのジョギング なぜ、誤解が広がったのか

警鐘相次ぐ「マスクとスポーツ」

石井好二郎 同志社大学スポーツ健康科学部教授・同志社大学スポーツ医科学研究センター長

ランナーはウイルスをまき散らして走る?

 上記動画を撮影した同じ日、ベルギー・オランダの研究者がコンピューターシミュレーションにより実施したというコンピューターグラフィック(CG)画像が、SNSを中心にインターネットを通じて世界中に拡散された。その画像は、あたかもランニングをしている前方の人物の飛沫が、後方の人物に流れるような図や動画であった(図5)。

ジョギングにマスクの誤解拡大図5(石井教授提供)

 蒸気機関車の吐き出す煙を定点観察すれば理解できるが、機関車は前方に移動するものの、煙自体は吐き出されたその場で留まって拡散しているのであり、後ろに流れているわけではない。このシミュレーション画像も、前方のランナーが吐き出した飛沫の中に、後方のランナーが移動してくるというのが本来であるのに、その動画はランナーが飛沫をまき散らしているかのように思わせるものであった。また、その距離はウォーキングで5メートル、ランニングで10メートル、サイクリングでは20メートルにも及ぶと記されていた。

 海外では、すぐにこの研究の問題点が指摘された。重要と思われる部分を以下に要約する。

①研究は査読(審査)経て公開されるものであるのに、著者らはその過程を踏まずネット上に学術論文ではない形で公開した。

②方法や結果の記載が不十分であり、実施したコンピューターシミュレーションがどのように導き出されたかが不明である。しかし、自分たちの発見については詳述している。

③研究グループにウイルス学研究者、疫学研究者などの医学研究者を含んでおらず、著者自身が、「気体力学の研究であり、ウイルス学的、医学的、疫学的な感染リスクについての結論は導き出していない」と述べている。

 この研究に対し、疫学者のハーバード大学のウィリアム・ハナージ准教授は、「この情報はウイルスのように拡散し有害であり、私の血を沸騰させる」と怒りをあらわにしている。

 筆者は、この研究は人々に疑心暗鬼を生じさせ、不要ないさかいを生んでしまうと危惧する旨を自身のフェイスブックに4月15日に投稿しているが、同様の思いをシドニー大学のエマニュエル・スタマタキス教授も抱いており、インターネット上の学術情報サイトに以下のようなコメントを残している。

 「この研究に社会へのアドバイスや行動変容をさせる根拠はない。不確かなシミュレーションで、ライフスタイルへのアドバイスをするのは無責任だ。このアドバイスに従うと一部の都市では運動がほぼ不可能となり、人々の外出を妨げてしまうことは間違いない。また、この情報を信じる人が出てくる危険性がある。それは、他人に対し『配慮が無い!』と思ってしまうことを生み、人々の間に対立と摩擦を生じさせる」

・・・ログインして読む
(残り:約2825文字/本文:約5921文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

石井好二郎

石井好二郎(いしい・こうじろう) 同志社大学スポーツ健康科学部教授・同志社大学スポーツ医科学研究センター長

1964年3月、大阪生まれ。博士(学術)。広島大学助手、北海道大学講師・助教授・准教授を経て2008年4月より同志社大学スポーツ健康科学部教授。日本肥満学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本臨床運動療法学会などの理事。著書に「もっとなっとく使えるスポーツサイエンス」(講談社)、「からだの発達と加齢の科学」(大修館書店)、「使える筋肉・使えない筋肉 アスリートのための筋力トレーニングバイブル」(ナツメ社)、「サルコペニアがいろん」(ライフサイエンス出版)ほか多数。

石井好二郎の記事

もっと見る