海洋放出の是非を考えるのに欠かせない「トリチウム水」への理解
ALPS処理は有効なのか、発表データは正しいのか、様々な疑念が生じやすい「水」
小山良太 福島大学食農学類教授
1.汚染水とトリチウム水
原子力災害から福島の復興において、最大の難関は、福島第一原子力発電所の廃炉にある。
2017年7月には、3号機の格納容器内部の映像が公開され、燃料デブリ(溶融核燃料)の一部とみられる塊が確認された。廃炉の最終工程が燃料取り出しだとすると、直近の課題は増え続ける「汚染水」をどのように処理するかという問題である。
一般に「汚染水」と呼ばれているものは、性質の異なる2種類の水を指す。
一つは原子炉に流入する前に井戸(サブドレン)でくみ上げられた地下水である。これは放射性物質に触れる前の水であり、検査により基準値以下であれば現在でも海洋放出されている。
もう一つは原子炉の冷却に使われた後の水であり、これは汚染物質に直接触れるため高濃度に汚染されてしまう。

汚染水発生のメカニズムとALPS処理水*(出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書(2020/2/10)p.10より)
この冷却で汚染された水は、ALPSという装置でセシウムやストロンチウムなどの核種を除去する処理をしたうえでタンクに貯蔵されている。しかし、この処理の過程では、水と構造が似ているトリチウムという核種は除去できない。
原発建屋に入る前にくみ上げられた地下水も、原子炉冷却で核物質に触れ汚染された後に除去処理された水も、一般に「汚染水」として認識されることがあるが、注意が必要である。処理された水もトリチウムが残存する以上は「汚染水」と呼ぶべきだという主張もあるが、筆者が委員として参加した経産省資源エネルギー庁の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」では、処理前のものを「汚染水」、処理後のものを「ALPS処理水」または「トリチウム水」と定義している。