「黒人問題」ではなく「白人問題」、「沖縄問題」ではなく「ヤマト問題」
2020年07月08日
本稿の(上)では、Black Lives Matterの起源を振り返りながら、沖縄反戦平和運動との共通性に言及した。(下)では、日本における黒人差別や、重層的な「複合差別」に触れつつ、Black Lives Matter運動が盛り上がりをみせる理由に迫っていきたい。
黒人差別問題に関して、日本人は「蚊帳の外」にいるわけではない。
アパルトヘイト政策を行った南アフリカ政府から、嬉々として名誉白人の称号を受け取った。財閥の経済活動を優先させたこうした政策は、国連のアパルトヘイト特別委員会からも批判されることになった。
それだけではない。日本の原発電力を支えてきたのは黒人たちだった。それは原発で使うウラン採掘の際にアフリカの黒人が被ばくしているだけにとどまらない(注1)。日本の原発でも、多数の黒人が従事していた。
写真家の樋口健二氏は、2011年6月に開催されたシンポジウム「そこで働いているのは誰か――原発における被曝労働の実態」(主催:アジア太平洋資料センター)で以下のように講演している。
国会で「黒人が被ばくしているかもしれない。これはやがて国際問題にも発展するのではないか」などと質問した。しかし旧通産省などの局長は「それは知りません」「来ているわけがない」などと答え(…中略…)共同通信を通じて、全国の地方紙に掲載された。私が撮影した黒人の写真を見て、局長たちも認めざるを得なくなったのだ(注2)。
元東京電力社員の蓮池透氏によると、「当時、黒人には放射線量をどのくらいまであびることができるのかといった制限がなかった」(注3)のだという。
しかし、同時に我々が考えなければならないのは、黒人だけでなく、沖縄、女性、障害者……さまざまなマイノリティーに、構造的差別の被害を押し付けてきた/いるという事実である。しかも、こうした「当事者性」は極めて複雑なものである。
6月に入り、欧米では「Black Trans Lives Matter」(黒人のトランスジェンダーの命をなめるな)が新しく運動のキーワードになっていた。6月9日、同じ日に米国で最近2人の黒人トランス女性が死亡したのである。運動の先頭に立つレン・マースによると、「どちらもマスコミは誤解をし、死後、彼女たちを『男性』と呼んだ」と告発している(注4)。こうした運動が、ニューヨーク(注5)やロンドンなどで広まっている。
「黒人」であり「女性」であり「トランスジェンダー」である当事者たちは
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