ポストコロナを生きる① まずは仕事と住宅の一体構造の克服を
2020年07月09日
新型コロナウイルスとの闘いが続いている。世界の感染者数は1100万人を上回り、死者も54万人を超えた。日本人感染者数は2万人を超え、死者も1000人に近づいている。(7月8日現在)。4月7日に発出された緊急事態宣言は、解除されたが、第2波の不安が募る。
多くの人が「いつになったらあの日に戻れるのか」と嘆いている。すでに2カ月近く「異常な日々」が続いている。正直、何もかもが変ってしまった気分だ。補償なき「休業要請」によって廃業など「回復不可能」な状態に追い込まれた人々にとっては「戻りたくても戻れない」のが現実だ。今後、派遣切りや雇い止めが増えるのは確実で、「自殺か、ホームレスか」という最悪の事態だけは何としても避けたい。
だが、私は「もう、あの日には戻れない」と思っている。それは新型コロナが終息しないということではない。
いずれコロナも、ワクチンや治療法が開発され、終息を迎えるだろう。「戻れない」と私が言うのは「戻る必要はない」ということだ。
新型コロナウイルスもいわば「自然災害」だ。「災害は等しくすべての人に及ぶ」と言われる。確かにウイルスは人を選ばない。金持ちも、有名人も、普通の人も、困窮者も分け隔てなく感染する。これは地震や台風と同じだ。
しかし、被害については、平等ではない。なぜなら災害というものは、元々社会に存在した矛盾や格差、差別、あるいは構造的脆弱性が拡張し露呈する事態だからだ。たとえ新型コロナウイルスの感染を免れたとしても、コロナの影響で亡くなる人は出る。今回の事態で、貧困や格差がさらに広がり、コロナ関連死が起こることを懸念する。
私は自問する。「あの日の社会は、本当に戻りたいような社会だったか」と。
現在の「困難」の原因が「元の社会」にあったなら、そこに戻ったところで意味はない。だったら、「もう戻らない」、「その先へ行く」と考えるべきではないか。
私たちは、「新型」、あるいは「未知の」と言われる「コロナ状況」に翻弄されているのだが、よく見れば、病気以外の問題は以前から社会に存在していた。派遣切り、雇い止め、中小零細企業の脆弱さ。どれもコロナ前からあった問題だ。構造的脆弱(ぜいじゃく)性といってもいい。
経済の動向で、自殺やホームレスに追い込まれる、そんな社会に戻ってどうするのか。だったら、そうではないもう一つ別の(オルタナティブ)社会を創造するしかない。それが新型コロナの時代を生きる者のなすべきことなのだと思う。
元からあった構造的脆弱(ぜいじゃく)性の一つに「仕事と住宅の一体構造」という問題がある。どういうことか、順を追って説明しよう。
私達の認定NPO法人「抱樸(ほうぼく)」の活動が始まったのは1988年の冬。この時点で労働者に占める正規雇用の割合は85%を超えていた。あれから32年が過ぎ、この国の雇用形態は大きく変化した。
画期は、1995年に日経連(現在の経団連)が出した「新時代の『日本的経営』―挑戦すべき方向とその具体策」だ。このなかで日経連は、労働者を➀長期蓄積活用型グループ、➁高度専門能力活用型グループ、➂雇用柔軟型グループ、の三つに分けることを提言した。
➀のグループを管理職や基幹社員として常雇用としたのに対し、➁および➂のグループはすべて有期雇用で、昇給や退職金の対象からも除外した。➁のグループは、当時は「労働者派遣法」に基づく通訳など26の専門業種を前提していたが、その後、派遣法は改定され、結果として大量の非正規雇用の労働者が生まれることになる。
現在、非正規雇用率は40%となり、実に2000万人近い労働者が不安定な雇用に就いている。さらに、「派遣労働」や「期間雇用」など非正規雇用に従事する人々の中には、派遣元が用意した「寮付就労」や「派遣先のアパート」で暮らすという、いわゆる「住み込み型非正規就労」に従事する人がいる。
私が代表を務める「NPO法人ホームレス支援全国ネットワーク」が、2019年度に厚生労働省社会福祉推進事業で実施した「不安定な居住状態にある生活困窮者の把握手法に関する調査研究事業」によると、「非正規雇用者で住居が不安定であると本人が認識している住み込み寮等の居住者」の推計人数は11万7500人である。
こうした「仕事と住宅の一体構造」は、従来の「社員寮」とは異なる重大な問題をはらむ。
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