コロナ前は戻るべき場所ではない。新たな社会を創るために
ポストコロナを生きる① まずは仕事と住宅の一体構造の克服を
奥田知志 NPO法人抱樸理事長、東八幡キリスト教会牧師
病気以外の問題は以前から存在した
私たちは、「新型」、あるいは「未知の」と言われる「コロナ状況」に翻弄されているのだが、よく見れば、病気以外の問題は以前から社会に存在していた。派遣切り、雇い止め、中小零細企業の脆弱さ。どれもコロナ前からあった問題だ。構造的脆弱(ぜいじゃく)性といってもいい。
経済の動向で、自殺やホームレスに追い込まれる、そんな社会に戻ってどうするのか。だったら、そうではないもう一つ別の(オルタナティブ)社会を創造するしかない。それが新型コロナの時代を生きる者のなすべきことなのだと思う。

困窮者支援の最前線で働く人々にマスクを配布する奥田さん(右)。ステイホームが呼びかけられる中、医療従事者や困窮者支援など福祉に携わるソーシャルワーカーはそうはいかない。「私たちがステイホームできるのは、その最中でも外で体を張って働いている人がいるからだ」
「仕事と住宅の一体構造」という脆弱性
元からあった構造的脆弱(ぜいじゃく)性の一つに「仕事と住宅の一体構造」という問題がある。どういうことか、順を追って説明しよう。
私達の認定NPO法人「抱樸(ほうぼく)」の活動が始まったのは1988年の冬。この時点で労働者に占める正規雇用の割合は85%を超えていた。あれから32年が過ぎ、この国の雇用形態は大きく変化した。
画期は、1995年に日経連(現在の経団連)が出した「新時代の『日本的経営』―挑戦すべき方向とその具体策」だ。このなかで日経連は、労働者を➀長期蓄積活用型グループ、➁高度専門能力活用型グループ、➂雇用柔軟型グループ、の三つに分けることを提言した。
➀のグループを管理職や基幹社員として常雇用としたのに対し、➁および➂のグループはすべて有期雇用で、昇給や退職金の対象からも除外した。➁のグループは、当時は「労働者派遣法」に基づく通訳など26の専門業種を前提していたが、その後、派遣法は改定され、結果として大量の非正規雇用の労働者が生まれることになる。
現在、非正規雇用率は40%となり、実に2000万人近い労働者が不安定な雇用に就いている。さらに、「派遣労働」や「期間雇用」など非正規雇用に従事する人々の中には、派遣元が用意した「寮付就労」や「派遣先のアパート」で暮らすという、いわゆる「住み込み型非正規就労」に従事する人がいる。
私が代表を務める「NPO法人ホームレス支援全国ネットワーク」が、2019年度に厚生労働省社会福祉推進事業で実施した「不安定な居住状態にある生活困窮者の把握手法に関する調査研究事業」によると、「非正規雇用者で住居が不安定であると本人が認識している住み込み寮等の居住者」の推計人数は11万7500人である。
こうした「仕事と住宅の一体構造」は、従来の「社員寮」とは異なる重大な問題をはらむ。
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