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「自由を制限された記者」で溢れる新聞・テレビの成れの果て

信頼回復の切り札「取材プロセスの可視化」の功罪を考える

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

 報道に対する読者・視聴者の信頼を取り戻すには、どんな方法が有効か。それについては多くの人がそれぞれに考えをめぐらせ、あちこちで論考を発表したり、実践に踏み出したりしている。「取材プロセスの可視化」はその1つであり、筆者も有効な手立てだと考えている。ただし、一歩間違うと、取材プロセスの可視化は取材と報道の命脈を絶ちかねない。

事件記事を可視化してみる

拡大SvetaZi/Shutterstock.com

 取材プロセスの可視化には、大別して2通りある。「ケース1」は、記事中で可能な限り取材源を明示する方法だ。事件報道を例にすれば、以下のようなスタイルである。もちろん、全くの空想記事である。

【従来型】
 札幌大通署は2日、傷害の疑いで、札幌市中央区大通の公務員、山田太郎容疑者(40)を逮捕した。調べによると、山田容疑者は1日夜、札幌・ススキノの飲食店で、店員の態度が悪いと腹を立て、店員の顔を殴る蹴るなどして3カ月の大けがを負わせた疑いを持たれている。同署によると、山田容疑者は「カッとしてやった」と供述し、容疑を認めているという。
【可視化型】
 札幌大通署は2日、傷害の疑いで、札幌市中央区大通の公務員、山田太郎容疑者(40)を逮捕したと同日夕に発表した。道警記者クラブ所属の各社に限って配布された「報道メモ」によると、山田容疑者は1日夜、札幌・ススキノの飲食店で、店員の態度が悪いと腹を立て、店員の顔を殴る蹴るなどして3カ月の大けがを負わせた疑いがあるという。同署広報担当の鈴木三郎副署長によると、山田容疑者は「カッとしてやった」と供述し、容疑を認めているという。しかし、本紙は容疑者本人や当番弁護士に接触できておらず、道警側の発表内容や容疑者の「カッとしてやった」という供述内容が事実かどうか、現時点では確認できてない。

 報道の端緒が何であったか、報道側が事実をどこまで確認できているか。「従来型」では隠れていた取材行為が「可視化型」では見えてくる。この程度の可視化なら、すぐに実行できそうな感じである。

 ただし、「可視化型」は当然、文字量が増える。短い文章が好まれるスマホ時代において、「可視化型」記事のスタイルが良いか悪いかは意見が分かれるだろう。文字の分量や丁寧すぎる説明に「うっとうしい」と感じる読者も多いはずだ。

 それでも、取材がどのように行われたかを示し、組織名の陰に隠れた当局者の個人名を明示することは、歴史を記録するというジャーナリズムの役割から言っても無意味ではない。第三者による記事の検証も今よりは容易になる。

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筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

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