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福島の甲状腺検査と住民の健康を本当に見守るために/上

自分の「ものさし」を持つということ――緑川早苗氏インタビュー

服部美咲 フリーライター

 東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下福島第一原発事故)の後、事故当時18歳以下だった全県民を対象に、超音波機器を使って甲状腺がんの有無を調べる検査(甲状腺がんスクリーニング。以下甲状腺検査)が行われている。

 この甲状腺検査には、過剰診断(検査で見つけなければ一生症状を出さず、治療の必要がなかった甲状腺がんを見つけること)をはじめ、複数の問題があるという指摘がある。

 甲状腺がんスクリーニングは、受診者へのメリットが少ない一方で、過剰診断などの不利益があることから、国際的に、たとえ原子力災害の後であっても、実施すべきでないとされている。しかし、原発事故後の福島では、今なお甲状腺検査は続き、すでに10年目になる。

 福島の甲状腺検査の中心的業務に、検査が始まった当初から関わった緑川早苗・元福島県立医科大学准教授が、2020年3月末で福島県立医科大学(以下福島医大)を退職した。その後、甲状腺検査についての正しい情報を発信したり、不安を抱える人の相談窓口を設けたりするNPO「POFF」を医療関係者や住民の有志とともに発足し、共同代表を務めている。

 今回、福島の甲状腺検査の現場の実態と課題について伺った。(聞き手・構成 / 服部美咲)

*この記事は2020年7月8日にシノドスで掲載された記事を前後編に分けたものです
拡大緑川早苗さん
緑川早苗
(みどりかわ・さなえ) 内科医
宮城学院女子大学教授。医学博士。研究分野は内分泌代謝学、スクリーニングコミュニケーション学。2020年3月まで福島県立医科大准教授として甲状腺検査の運営や現場業務、住民への説明を担当。現在はNPO「POFF(ぽーぽいフレンズふくしま)」発起人代表となり、地域住民の代表等を通じた学習会の実施や個別の相談に関する電話、メールでの支援システムの構築とその継続的な実施に携わる。

流れ作業のように行われる「学校検査」

拡大公開された検査のリハーサルで、医師は大学職員の首に甲状腺の超音波検査装置をあてた=2011年10月8日、福島市光が丘の福島県立医科大

――2020年3月末で、福島医大を退職されました。在職中は、甲状腺検査にどのように関わっていらっしゃいましたか。

 福島第一原発事故が起きた2011年3月当時は、福島医大で内科医として勤務していました。チェルノブイリ原発事故が起きた後、周辺地域に住む子どもの甲状腺がんがたくさん見つかりました。福島第一原発事故の後にも同じようなことが起きるんじゃないかという不安を、私自身も漠然と抱いたことを覚えています。

 まもなく、福島県が子どもの甲状腺検査をすることになりました。検査は、福島県が福島医大に委託して行っています。私にも「甲状腺検査を手伝うように」と声がかかり、それから検査の現場での仕事が始まりました。

――具体的にはどのようなお仕事をなさっていましたか。

 甲状腺検査そのものを担当していました。対象となる子どもたちの首に、超音波機器を当て、画面に映る映像で甲状腺の様子を確認するというものです。

 それから、超音波検査の結果、精密検査(二次検査)を受けるようにいわれた子たちが、安心して話せるような時間をつくるようなこともしていました。検査会場で恐怖や不安のあまり泣いてしまうことがよくありましたので。

 その延長で、個別に甲状腺検査についての電話相談や、甲状腺検査の説明会や出前授業などを続けていました。そういう意味では、検査対象の方々に最も近い場所にいたと言えるのかもしれません。

――学齢期の対象者は、原則学校の授業時間を使って一斉に甲状腺検査を受けている(以下学校検査)とのことです。学校検査の現場の様子を伺えますか。

 子どもたちは、クラスごとに検査を受けにきます。そして機械的に検査ブースに割り振られ、検査台に寝て、超音波機器を当てられ、出ていきます。流れ作業のように行われるので、なんの疑問を抱く間もありません。

 たとえば、学校の体育の授業で、「ボールをついて、校庭を1周回ってきましょう」と言われると、子どもたちはその通り、ボールをつきながら校庭を回ってきますね。それと同じように、子どもたちは、ごく自然な流れのままに、甲状腺検査を受けているのです。

 それでもときどき、とても心配そうな表情の子を見かけることがあります。検査会場で、「こんにちは」と声をかけても、ほかの子みたいに元気よく挨拶がかえってこない。怯えたような、不安そうな感じで立っています。

 「ああ、この子はもしかして」と思って、「検査、苦手かい?」と声をかけると、やっぱりどうも、あんまり検査が好きじゃない。「やっても大丈夫?」と訊くと、「やってもいい」と返ってきて、それで検査をしますね。すると、たとえば結節があったりするんです。

 もしかしたら、前回の検査でも「結節がある」と言われて、二次検査(一次検査で必要と判断された場合に行う精密検査。詳細な超音波検査、血液検査、尿検査のほか、医師が必要と判断した場合には穿刺吸引細胞診を行う)に行った経験があるのかもしれません。

 このように、自分の甲状腺について、もし何か悪いことを言われたら嫌だなという子も中にはいます。あるいは、家族が皆とても放射線について心配しているという場合もあります。超音波機器を首に当てている最中に、「放射線、入っていますか?」と訊く子もいました。

 一人ひとりの体の病気についての検査ですから、受ける・受けないの選択は、一人ひとり違っていて当然です。それにも関わらず、全員一律に、流れ作業のように検査を受けている今の状況には問題があると思います。

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筆者

服部美咲

服部美咲(はっとり・みさき) フリーライター

1983年生まれ。慶応義塾大学卒。ITベンチャー企業、地方団体勤務を経て、現在フリーライター。東北復興新聞、先端医療・工学メディア、官公庁広報など複数メディアで活動する。取材分野は地方創生、ワークスタイル、医療、工学など。