自分の「ものさし」を持つということ――緑川早苗氏インタビュー
2020年07月22日
福島の甲状腺検査の中心的業務に、検査が始まった当初から関わった緑川早苗・元福島県立医科大学准教授が、2020年3月末で福島県立医科大学(以下福島医大)を退職した。その後、甲状腺検査についての正しい情報を発信したり、不安を抱える人の相談窓口を設けたりするNPO「POFF」を医療関係者や住民の有志とともに発足し、共同代表を務めている。
今回、福島の甲状腺検査の現場の実態と課題について伺った。(聞き手・構成 / 服部美咲)
*この記事は2020年7月8日にシノドスで掲載された記事を前後編に分けたものです
緑川早苗(みどりかわ・さなえ) 内科医緑川早苗さん
宮城学院女子大学教授。医学博士。研究分野は内分泌代謝学、スクリーニングコミュニケーション学。2020年3月まで福島県立医科大准教授として甲状腺検査の運営や現場業務、住民への説明を担当。現在はNPO「POFF(ぽーぽいフレンズふくしま)」発起人代表となり、地域住民の代表等を通じた学習会の実施や個別の相談に関する電話、メールでの支援システムの構築とその継続的な実施に携わる。
福島の甲状腺検査は、「福島の住民が放射線被ばくによる子どもの甲状腺がんを心配して、検査を求めたために始まった」と説明されています。でも、一般の方々が、医療者のように、多くの選択肢の存在を知っているわけではありません。
原発事故しばらくしてすでに予測されていましたし、最近の研究でもより確かになってきたことですが、子どもの甲状腺への被ばくは甲状腺がんのリスクを上げるようなレベルではありませんでした。
このことを知れば、もう甲状腺検査はしなくてもいいかなと思う方はたくさんいらっしゃるでしょう。あるいは、検査をするにしても、高精度の超音波機器ではない方が良いかもしれません。2020年に、医学雑誌のLancetの内分泌・糖尿病に関する姉妹紙にも、小児がんでたくさんの医療被ばくをしたような人であっても、超音波ではなく、5年に1度の触診の方が良いという意見投稿が掲載されています。
たとえば、年に1度病院に来て、触診して、お話をするようなフォローが適した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一人ひとりの不安やその背景事情を聞き取って、それに応じて、そのとき最適と考えられる医療や情報を選んで提供をすることが見守りでしょうし、何がその人にとって今の最適な見守りの形なのかを判断するのこそが、医師の仕事だと思います。
一般の住民が超音波検査を求めているようだから、全員に一律で超音波によるスクリーニングをしましょうというのは、少なくとも医師のとるべき選択ではないと思います。
――原子力災害などの災害時に、現地の住民の健康を調査する必要があるとき、どのようなことを注意すべきでしょうか。
災害時に、被災地の住民に対して何か介入するときに、まずはなによりも、「被災者に対する害がない」ということを大前提とするべきです。そして、もし途中で介入に害があることが判明したら、とにかくいったんストップ、やり方を見直す。
こう言うと、大学の内部でも随分
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