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コロナで公教育は止まった。その「失敗の本質」を直視せよ

デジタル化はインフラ整備だけではできない。「科学的証拠」が示す政策とは

大森 不二雄 東北大学教授

中国は休校中の学習継続に成功した

 日本とは対照的に、中国における休校中のオンライン授業は、対象となった学習者(児童・生徒)2億人以上という規模が世界最大であったのみならず、その普及状況もおそらく世界でほとんど例を見ないものであった。

 その出発点は、日本の文科省に相当する教育部が1月29日に発表した「停課不停学」(休校になっても学習は停止させない)との方針であった。オンライン授業など遠隔教育により、休校中も学習を継続するよう、中国全土に指示したのである。

 この方針を受けて、地方政府は、素早く対応し、中央政府(教育部)の教育コンテンツサイトの活用のみならず、民間企業と連携して自前のオンライン教育システムを構築・運営するなど、公教育のオンライン化が急速に進んだ。中国の家庭や学校におけるパソコンの普及状況は、日本を下回るが、パソコンのない家庭ではスマホを使用するとともに、テレビによる教育放送等も併用しつつ、インターネット等ITインフラの脆弱な地域を含め、遠隔教育が全国的に実施された。

 コロナ禍による休校中の中国の初等中等教育におけるオンライン授業については、中国人研究者等による調査研究の論文・報告等が数多くあるが、それらを概観・分析したレビュー論文(注1)に基づき、筆者が重要と考えるポイントを3点に絞って紹介したい。

 第一に、オンライン授業は、多くの地方で普及し、パンデミック下の中国では当たり前のものとなっていたことである。湖南省の研究機関が中国全土を対象に行った調査によると、79%の地域でオンライン授業が行われていたという。また、浙江省の調査では、同省の中学生・高校生の96%がオンライン授業に参加していたという。

 第二に、オンライン授業のプラットフォームとして最も広く活用されたのは、既存のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)や、企業向けモバイルオフィスサービスをベースに教育機関向け機能を追加したものだったことである。具体的には、ネットサービス大手のテンセント(騰訊控股)が開発したメッセージアプリのウィーチャット(WeChat,微信)、電子商取引大手のアリババグループ(阿里巴巴集団)が提供するビジネス用コミュニケーションツールであるディントーク(DingTalk,釘釘)に学習管理システム的な機能を付加したものが、それぞれの代表的な例である。休校時の教育のオンライン化という新たな市場の出現にIT企業が素早く対応し、教員・生徒等が容易に手早く使える便利さが普及を促進したものと思われる。

 第三に、IT活用による児童生徒の自学自習とこれに適合した教師の指導の組み合わせが、新たな教育モデルとして浮上したことである。浙江省の調査によると、休校中に最も普及したのはライブ授業で52%を占めたが、生徒の満足度が最も高かったのは教材パッケージの自学自習であったという。

2020年3月2日から始まった中国・上海市のオンライン授業。ケーブルテレビの画面から=藤田康介さん提供拡大2020年3月2日から始まった中国・上海市のオンライン授業。ケーブルテレビの画面から=藤田康介さん提供

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筆者

大森 不二雄

大森 不二雄(おおもり ふじお) 東北大学教授

京都大学文学部卒業、Ph.D.(ロンドン大学教育研究所)。専門は教育政策・教育社会学。1983年文部省入省後、在英大使館、岐阜県教育委員会、在米大使館を含め、行政に従事し、文部科学省にてWTO貿易交渉等を担当した後、2003年から熊本大学教授、首都大学東京教授を経て、2016年より東北大学教授。著書に、『「ゆとり教育」亡国論』(2000年、PHP研究所、単著)、『IT時代の教育プロ養成戦略』(2008年、東信堂、編著)、『拡大する社会格差に挑む教育』(2010年、東信堂、共編著)、『大学経営・政策入門』(2018年、東信堂、分担執筆)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです