試合数では機構・経営者陣営、年俸では選手会が主張に沿う成果を得たが、火だねは残る
2020年07月23日
「2020年7月24日」は将来、大リーグの歴史を著すときに、特筆大書される日となることだろう。新型コロナウイルスの感染拡大により、当初予定されていた3月26日から4カ月遅れた開幕日として。
と同時に、開幕を迎えるまで、大リーグ選手会が、大リーグ機構・各球団の経営者と、試合数や年俸の削減のあり方を巡り激しく対立したことも、人々の記憶に残ることだろう。
選手会にとっても機構・経営者にとっても、公式戦を行うということそのものに大きな意見の違いはない。にもかかわらず、両者の交渉は決裂の一歩手前まで揉めたのだろうか。
公式戦の開始時期が変更されたことで、今季の試合数は通常の162試合から60試合に削減、毎年7月に行われているオールスター戦も中止となった。
6月19日に公式戦が始まった日本のプロ野球は、試合数が143から120に削減されたほか、全12チームが18試合を行うセ、パ両リーグの交流戦、2試合開催されるオールスター戦はいずれも中止となっている。
こうした措置を見れば、試合数こそ大リーグよりも公式戦の開催期間が約3カ月長い日本の方が多いものの、オールスター戦の扱いなどでは大差のないように見える。
一方、大リーグは8月13日にシカゴ・ホワイトソックスとセントルイス・カーディナルスがMLB at Field of Dreamsと題する公式戦を行う。
これは、ケビン・コスナーが主演し、今も野球映画の傑作と高い評価を得ている『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)が撮影されたアイオワ州ダイアーズビルの新球場開設を記念した行事だ。
また、8月17日には、アフリカ系アメリカ人のプロ野球リーグであったニグロ・リーグの創設100周年の記念式典、8月29日には1947年に「人種の壁」を破り、初の「黒人大リーグ選手」となったジャッキー・ロビンソンの偉業を讃える恒例の「ジャッキー・ロビンソンの日」を予定通り開催するなど、話題作りに積極的な様子がうかがえる。
このように、大リーグは新型コロナウイルスで停滞する球界の雰囲気を一掃するためにも、様々な努力を行っている。
ただし、大リーグがこうした取り組みを行うにはある理由がある。それは、2020年のシーズンが、1876年のナショナル・リーグの発足以来の大リーグの歴史の中でも、かつてない危機的な状況にあるからだ。どういうことか。
たとえば公式戦の試合数。大リーグの公式戦が60試合となるのは、ナショナル・リーグのみであった1877年と1878年のシーズン以来の少なさだ。当時、連盟に所属したのは6球団で、現在の2リーグ30球団とは組織、規模の面で大きく異なることを考えると、明らかに異常事態である。
1918年から1920年にかけて、世界的にスペイン風邪が流行した際はどうだったか。感染拡大に伴い、ボストン・レッドソックスとシカゴ・カブスによるワールド・シリーズを繰り上げ開催し、例年よりも1カ月近く早くシーズンを終了したが、各球団は公式戦の打ち切り前に123~129試合を行っている。
また、1933年から続くオールスター戦は、これまで第2次世界大戦による米国内の旅行移動制限により中止となった1945年を除き、毎年行われてきた。まさしく75年ぶりの異常事態である。
こうして見ると、2020年に大リーグが置かれた状況は、世界で約50万人が死亡したと推計されるスペイン風邪や、米国が大西洋と太平洋の二方面で激しい戦いを繰り広げた第2次世界大戦のときよりも厳しいものと言わざるを得ないのである。
それでは、かつてない危機的な局面を迎え、大リーグ機構・経営者と選手会はどのような交渉を行ったのだろうか。
3月下旬、両者は今季の年俸を試合数に比例した日割りとし、公式戦の試合数が削減されても1年を通して大リーグ出場枠ないし故障者リストに登録された選手は、通常の1年に相当する大リーグの在籍期間(サービスタイム)を得られることで合意している。
この時点では、公式戦の開幕日を巡る労使の交渉は、早期に妥結することが予想されていた。選手にとって重要なサービスタイムの扱いで、経営者側が譲歩したからだ。
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