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ALS患者嘱託殺人事件は安楽死と無縁 医師の立場から言いたいこと

生きたいと思うのが人間。それを手伝うのが医師の使命だ。

松永正訓 小児外科医・作家

嘱託殺人以外あり得ない今回の事件

 そのうえで、今回の事件の医師の行為について考えてみよう。

 今回のケースでは1から3を満たしていない。1で想定される痛みとは癌性疼痛のようなものだ。女性は寝たきりで身体に痛みはあったはずだが、耐えがたいとまでは言えないだろう。2については、まだ呼吸があったのだから死期の直前ではない。3は、ヘルパーや主治医が可能なかぎり緩和をしていただろう。代替手段がないレベルまで到達していたと言えない。つまり安楽死ではない。

 これは嘱託殺人以外ではあり得ないのだ。警察は慎重に捜査を進めたようだが、実はこの観点からは難しい話ではない。そして、この嘱託殺人が私たちの心を暗くする理由は、容疑者の医師が、生きるに値しない命は消した(枯らせた)方がいいと、考えていたからである。

拡大ALS患者嘱託殺人事件の大久保愉一容疑者(ブログから)
拡大ALS患者嘱託殺人事件の山本直樹容疑者(ツイッターから)

医師たちに苦悩はあったのか?

 彼らの考えによれば、

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筆者

松永正訓

松永正訓(まつなが・ただし) 小児外科医・作家

1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。小児がんの分子生物学的研究により、日本小児外科学会より会長特別表彰(1991年)を受ける。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。 『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』で第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』で第8回日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞を受賞。 『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)、『どんじり医』(CCCメディアハウス)、『ぼくとがんの7年』(医学書院)『患者が知らない開業医の本音』(新潮新書)などの著書がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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