税金使用には明細書を
2020年07月30日
この名目の下、巨額の予算が組まれています。しかし、国のホームページを見ても「施策例」は載っているものの具体的なイメージがつきにくいものが色々とあります。
買い物で例えれば、「色んな食べ物系 5000円」としか書かれていないようなものです。明細がないのです。その是非を知るには「焼きそば400円、サラダ250円、チーズケーキ200円……」位は書いてくれないと、中身を想像しようがありません。
明細のない請求書の怖さ。東日本大震災であれだけ「復興予算流用だ」と言われた一方で、その教訓を生かせているのか。下記3点の順で考えてみます。
1:コロナウイルス対策予算の明細を追ってみた
2:東日本大震災の復興予算で起きたこと
3:明細を「誰でも・常に・簡単に」見られるように
特に「3」は、世論が全てですので、この記事を読んでくださった方はフォロー・リツイートしてもらえれば嬉しいです。
まず財務省に6月23日付で、明細を求め情報公開請求をしてみました。ですが、いまだに「文書が特定できない」との押し問答から進展せず。何十兆円にも及ぶ、膨大な項目がある中、全体像を取材するのはやはり不可能そうです。
そこでとりあえず、「ホームページにある概要からしてよく分からない事業」にしぼって調べることに。「説明責任を果たす必要がある」ということで、国土交通省の方が、少し詳しい明細資料を提供してくれました。
そこは素直に感謝するべきですし、このようにちゃんと説明しようとした省庁をやり玉に挙げてよいものか抵抗があります。
ただ、私は明細を「誰でも・常に・簡単に」見られるようにしておくことの大切さをどうしても訴えたいので、使わせて頂くことにしました。
国交省と言えば「GoToトラベル」。この事業、スキームや実施時期について批判されています。ただそれでも、コロナウイルス対策との関連自体はまだイメージしやすい部類だと思います。
ですが、もう一つの事業、「インフラ・物流分野等におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた抜本的な生産性の向上」(約178億円)はどうでしょう。
新型コロナウイルス感染症対策を契機に、これまでの取組を超えて、BIM/CIMを活用し、公共事業について、設計・施工から維持管理に至る一連のプロセスやストック活用をデジタルで処理可能とするとともに、熟練技能のデジタル化を進めること等により抜本的な生産性向上を図る。また、非接触・リモート型に転換する(国土交通省資料より引用)
リモートワークを推進することで、コロナウイルスの感染リスクを下げようという趣旨でしょうか。
しかし、今回入手できた明細(といってもそこまでは細かくない……)を見ると、リモートワークっぽい項目があまり見られませんでした。
とはいえ、その正当性を私一人で決めてしまうのも良くないし、そもそも全部取材することなどできません(申し訳ありません)。ということで今回は、もう皆さんに見て御判断頂こうという趣旨で、次ページに全て書き出してみました。
※入手資料にならい、すべて「単位:千円」です
●河川堤防センサーによるリアルデータの積極活用:599,610
●試験走路へ敷設するセンサーによるリアルデータの積極活用:1,699,518
●熟練労働者の技能継承のためのリアルデータ取得のための研究:299,920
●インフラDX推進センター(仮称)の設置:7,169,318
●直轄業務及び工事におけるリアルデータ取得のための環境の整備:599,000
●建設資機材へのサプライチェーンの影響に係る市場調査:29,920
●新技術導入促進経費:300,000
●建設業のDXに向けた環境整備:2,206,009
●建設業許可・経営事項審査の電子申請システムの機能拡充に向けた検討:99,906
●効率的手法導入推進基本調査:299,970
●賃貸住宅管理業等の登録に係る電子申請システムの構築:149,930
●都市インフラ・まちづくりのDX:2,004,672
●国土数値情報の整備:169,921
●地域防災力向上に向けた災害リスク分析とリスク評価図の検討:19,995
●スマートアイランド推進実証調査109,668
●在宅配送確保対策事業(総合政策局):10,000
●コロナ対策を契機とした自動車運送事業の非接触・リモート化(自動車局):100,000
●線路沿線の状態監視システム(鉄道局):22,043
●高架橋等の遠隔非接触検査システム(鉄道局):17,956
●3次元データ等を活用した点検システム(鉄道局):19,953
●地方鉄道向けの無線式列車制御システム(鉄道局):49,968
●新型コロナウィルス感染症対策に向けた海技システムプログラム改修:27,398
●船員職業紹介システムの機能拡充:37,483
●海上物流を支える我が国船舶産業の生産工程・流通のデジタル化:99,961
●港湾建設現場の省人化・生産性向上の推進に資する新技術の現場実証:340,000
●コンテナターミナルにおけるダメージチェックの効率化に資する新技術の現場実証:60,097
●コンテナターミナルにおけるオペレーション最適化に資する新技術の現場実証:94,968
●港湾関連データ連携基盤の構築:163,254
●検疫時等の情報収集能力の向上:138,299
●本省テレワークシステムの強化:229,702
●地方機関のWEB会議体制の強化:608,665
……さて、皆さま。上記のうちコロナウイルス対策との関連がイメージできた事業はいくつあったでしょうか。
概要よりは少し詳しいとはいえ、やっぱり何をするかイメージがつかないタイトルの事業もあるし、コロナウイルスとのつながりはなおさら分からない事業もあったのではないでしょうか。
この事業はコロナウイルス対策の全体予算額の1%にも満たないものです。しかし、それでもこのような状態です。
私が何故ここまでするのかというと、およそ10年前の「東日本大震災の復興予算流用」問題が頭から離れないからです。そして、「今回は同じ事をさせないよ」という世論が必要と考えるからです。
なぜなら、確保した32兆円もの予算は様々な物に使われています(今後も含む)。その税負担を受け入れた私たちの思いは、「家族や故郷を失った人たちの救いになるなら」という一点にあったのではないでしょうか。
ところが被災者を直接救うという観点からはおよそ遠い所に税金は消えていきました。
この手の話をすると「いつまで○○の話をしてるんだよ」というテンプレのようなご批判を毎回頂くのですが、そういう方々にお金を借りれば、違う目的に使っても時間が経てば、許してくれるということでしょうか。
私なりの答えを書けば、ベストは「不適切に使われた税金が戻ってくるまで」。
ただ、もう使いまくっちゃって返済が難しいのであれば……「まずダメージを最小化」→「どういう経緯で税金が消えたかを教訓として共有」→「再発防止の体制が整うまで」です。
「政策の話をしろよ」というのもよく見るテンプレですが、税金(軍資金)の使い方をレビューし考えることは政策の土台だと私は思います。政策の話をしたいからこそ、しっかり税金の話をしなければならないと思っています。軍資金の使い方・土台が駄目なら、その後の作戦もうまくいきません。
今回は具体例として、復興予算がなぜか東北から2000キロ離れた石垣島に飛んでいたという体験を書こうと思います。
正直、「海外の国に○○をプレゼント!」とかもっと謎な事業もあったのですが、あまりにも遠すぎるとイメージがつかなくなるかなと思いまして。
この復興予算の実施事業名は「石垣市における外国人観光客の移動容易化のための言語バリアフリー化調査」。私の手元にはこの事業に関連した、約140ページの報告書があります。長いので、ざっくり「私なりに、被災地の復興と関連付くよう」説明してみます。
【石垣島の路線バス(1日数本運航)の停留所に、バス停名を外国語にしたシールを貼る。そうすると、海外から観光客がわんさか来てお金を使うので、それが巡り巡って被災地を救う。その効果を試すための調査をしよう】
…………すみません。私の努力が足りなかったのでしょうか。そりゃ巡りに巡ればいつかは東北にそのお金がたどり着くかもしれません。でも、どうせならもっとストレートに支援した方がよいような……
ただ、そうはいっても現場に行ったら、東北への支援金を納める外国人観光客の行列が出来ているのかもしれません。ということで、上司に頭を下げて、行ってきました石垣島。
そして困ったこと……風雨の強い沖縄だからでしょうか。既に大半のバス停から文字が消えていました。シールが貼られていた痕跡はあるのですが、もはや読めません。
会社の金で出張に来ている手前、このまま手ぶらでは帰れない。レンタカーでひたすら島内のバス停めぐりをする羽目になりました。爽やかな南国の晴天の下、笑顔で語らうカップル、はしゃぐ団体客であふれる観光スポット。それらを尻目に、地元民用のローカルバスのバス停をチェックしては回る。
一応仕事ですから上下ダークスーツです。完全に不審者です。色々大切なものを失った気がします。
しかしついに見つけました。幸運にも風雨よけとなる建物が近くにあり、読める形でシールが残っていたのです。
それがこちら。私を不安と焦りから救ってくれた思い出のスポットです。
ただ、勝負はここから、まずバスが1日数本しかない。しかも乗降客がいなければ当然通過してしまいますから、シャッターチャンスはオンリーワン。
……写真撮影を終えると、ようやく肩の荷がおり、それまでの疲れと汗がふきだしました。しかしチェックはまだ終わりません。「そもそも1日数本のローカルバスに外国人客が乗っているのか」という点が残っているからです。
仮に「私はこのローカル線に乗りたくて来たんだよ。英語シールが貼ってあるなんて、超クールだぜ。だから東北の被災地にこれから寄付しようって気になったんだ!」という外国人が大勢居れば、この事業は結構ストレートに復興につながっていることになります。
何事も決めつけはいけません。ということで、外国人観光客捜しへ……
結論。そもそも外国人観光客は、「ローカルバスより、ツアーバスやタクシーを使う」。
納税者たる私の思いはあっさりと砕かれたのでありました。
でも彼らを責めてもしょうがありません。「シロアリ」という表現を使うメディアもありますが、彼らは至って真面目に、自分の所属組織に尽くしただけです。本当に毎日毎日朝早くから深夜まで、少なくとも私の目にしてきた官僚たちは尋常じゃないくらい働いていました。
なので、怒りを彼らにぶつけても事態は改善しないでしょう。
この思い、どうしたら伝わるものか。ということで、ここで各省庁を高校の部活動に例えてみることにします。あくまでも私見による比喩です。ご不快になられたら申し訳ありません。
部活の予算は毎年限られています。ある年、学校の部室棟が盗難被害にあいました。被害に遭ったのは、1Fに部室がある部活動です。
このままでは活動が続けられないので、学校は地域の人たちに「どうか寄付を!」と頼みました。その結果、なんと1000万円も集まりました。これがそのまま被害の回復に向かえば話は終わりです。
ですが2Fより上に部室がある部の人たちも、日ごろから「予算さえあればなあ……」とやりたいことを切り詰めています。そんな時、顧問の先生が部員たちに「なんとか1Fの支援と関連づけて予算とってこい」と言います。
その時、「いや、先生、そのお金は1Fの人たちのものだから、やめましょうよ」って言えるでしょうか。ごめんなさい。多分私は無理です。
真面目な各部員は、真面目に知恵を絞ります。
そうこうするうちにA部が提案。「1Fの人たちを励ますためには、まず2Fの人間が元気にならないといけない。だから部室のクーラーを新調して、元気になりたいと思います」というプランが通りました。
それを見るとB部の人たちは焦ります。「1Fの人を励ますために、筋トレマシーンを買って、1Fの人と一緒にやります」。これも通りました。
それを見ていた3Fの部の顧問が怒りました。彼は「オトモダチ」のパソコンショップから商品を買ってあげるようにおわせつつ、「なんとかしろ」と部員を責めました。
そして3FのC部は、「まずはウチの学校が被害にあったことを世の中に伝えることが大切です。だからパソコンを最新型に買い替えて、情報発信をするべきです」との案をひねりだしました。通りました。
そうすると4FのD部も……
この場合、部員たちには悪意があったのでしょうか。多分違うでしょう。むしろ自分の部や命令遂行のために頭をひねって真面目に考えたのです。この場合必要なのは、彼らに次のように言える環境を作ることではないでしょうか。
「あの~先生、このお金がどう使われるかは、全部公開されて皆にチェックされるんだそうです」
「無理して予算獲りに行くと炎上するから、ここは1Fのみんなに使ってもらうのが一番良いかと」
…ここで今回のコロナウイルス対策予算に話を戻します。
つまり、インターネット上の分かりやすいページに、分かりやすい説明と一緒に表示してもらわないといけません。(よくあるのが5~6回クリックしてようやく辿り着くネットの深層部にアップして、「私たち公表していますので」と言うパターンです。これはNG)
「これはおかしいだろ!と言われるリスク」>「予算を獲れるメリット」
こうならない限り、この手の話は止まらないでしょう。
予算資料を「概要」としてまとめることは必要です。でもホームページに載せる分量の制限を気にしすぎる必要はありません。
「いつ、どこで、どんな事業を、どのように、どんな種類の企業に発注する予定で、いくらで」実施するのか。
それが誰でも分かる、そして一覧表のように見やすくなっている資料をアップする。それは可能なはずです。
GoToトラベル事業の二転三転を見ると、世論が国を動かしやすくなっていると感じます。対策予算の使途を分かりやすく表示するよう、声を上げませんか。
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