赤木智弘(あかぎ・ともひろ) フリーライター
1975年生まれ。著書に『若者を見殺しにする国』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』、共著書に『下流中年』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「就職の成功失敗にかかわらず、人々が安心して社会生活を行える制度設計」が必要だ
とはいえ、それでも例年よりは厳しい就職活動にはなるだろう。そして数年後には今の学生たちが入りたくても入れなかった企業に、今の学生たちよりも低いランクの大学からの卒業生が入ることになる。就職時に景気が悪いというのはそうして「一生ものの貧乏くじを引かされる」ということである。
そもそも景気というものは、一国の政治がどのように頑張ろうとも、コントロールなどできないものだ。できると豪語する経済学者もいるようだが、経済というのは世界とつながっている。リーマンショックなど日本の政治でコントロールしようもない事態が日本の経済に影響を与えたりするわけだ。
また、今回のコロナ騒ぎにおける経済活動ですら、日本の政治だけでコントロールなどできていないのは、我々が今現在実感している通りである。
政治が経済をコントロールできないとすれば、政治は何をするべきかと言えば「就職の成功失敗にかかわらず、人々が安心して社会生活を行えるような制度設計」である。具体的には社会保障の充実である。
しかし、日本社会というのは、就職氷河期化からこちら、社会保障の充実を無視し続けてきた。その代わりに生み出したのが「景気さえ良くなれば、社会の問題はほとんど解決」という考え方なのだ。
しかしそれは「雨さえ降らなければ傘は必要ない」という無責任な考え方に過ぎない。本来であれば社会保障という傘を生み出さねばならなかったが、日本社会はバブルが崩壊して以降30年間も、ただ惰眠をむさぼったまま、明日は必ず晴れるだろうと、真っ黒な雲に覆われた空を見上げて信じ、無責任なままに就職氷河期世代の苦痛を無かったことにして、ここまで来てしまったのである。
だからもし、今年の学生の就職がうまくいかなかったとしても、それは日本社会の無責任さゆえであり、学生のせいではない。だが日本社会は容赦なく自己責任論を学生たちに突きつけるだろう。
だから、今年卒業の学生たちの就職が失敗したとしても、それは日本社会の怠惰ゆえの必然でしかない。
我々はそんなバカげた社会に生きているのである。
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