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コロナ禍は、新卒就職に「ニューノーマル」をもたらすか

転換は“自動的にはやってこない”としても……

児美川孝一郎 法政大学キャリアデザイン学部教授

2.直近の動き――2021年卒、22年卒の「就職活動」に何が起きているか

 前置きが長くなりすぎたので、さっそく本題に入りたい。

 <短期的視点>で見た場合、コロナ禍に襲われた現在の学生たちの就職活動には、何が起きているのか。趨勢は、かなりの程度まで明らかになってきたので、以下に要点のみを列挙しておこう。

2021年卒の就職活動

 まずは、現在の大学4年生の就活について。

 (1) この学年は、もともと経団連が、新卒採用のガイドライン設定から手を引いた学年である。引き続き、政府主導による「就活ルール」は存在しているものの、企業に対する“拘束力”は、率直に言って、緩みつつあった。そのため、この学年の学生たちの大学3年の(2019年の)夏および秋・冬のインターンシップは、企業側も例年以上に活発に実施しており、学生側の参加率や参加の頻度も、例年よりも高くなっていた。

 (2) 結果として、大学4年の4月を迎えた時点での学生の内々定の保有率は、インターンシップを経験した者を中心に、企業側の「インターンシップ経由者向けの採用ルート」に沿って就活が行われた結果、昨年までよりもかなり高くなった。その時点では、学⽣側の「売り⼿市場」が続いており、コロナの影響もぎりぎり避けることができたからである。

 (3) しかしながら、その後、コロナ禍が本格化し、緊急事態宣言も発出されるなかで、会社説明会などは軒並み中止になり、採用=就職活動は、大きく“停滞”していく。ただし、時間の経過とともに、企業は、会社説明会や面接をオンラインで実施しはじめ、緊急事態宣言の解除後には、全面的か併用かは別として、オンラインを駆使するかたちでの採用活動が、かなり盛んに実施されるようになっていった。

 (4) ただし、採用活動が、一度は停滞したことの影響はやはり避けがたく、7月時点での学生の内々定の保有率は、昨年までよりも大きく低下した。今後は、これまでの“遅れ”を取り戻す格好で、内々定保有率は、徐々に上昇していくと想定される。しかし、一方で、業績の悪化から新卒採用の中止を発表した企業もあり、採用数を予定よりも抑制する企業が出てくることも見込まれる。内定率がどこまで回復するのかは、現時点では未知数であろう。「就職氷河期」が再来するかのような議論もないわけではないが、それも、現状では判断できない。リーマンショックの際も、新卒採用が大きく落ち込むのは、危機の最中というよりは、1、2年の時間差をおいた後であった。

パーティション越しに就職活動生に説明する企業の採用担当者ら=2020年7月14日、山形市平久保拡大パーティション越しに就職活動生に説明する企業の採用担当者ら=2020年7月14日、山形市平久保

2022年卒のインターンシップ

 では、3年生のインターンシップの状況は、どうか。

 (5) これまでの「新卒就職」の流れに沿って、企業側では、夏以降のインターンシップの準備が進められている。ただし、今年の特徴は、多くの企業がオンラインでのインターンシップの実施を予定している点にある。現時点では、少人数に限定しつつ、対面での実施を発表している企業もあるが、今後の感染状況の広がりしだいでは、オンラインに切り替える企業が出てくることも十分に想定される。

 (6) もう一つの特徴としては、大学3年生のインターンシップへの参加意欲は、例年よりもかなり高まっている。なぜかと言えば、3年生は、先輩(4年生)たちの就活の経緯を間近に見るなかで、「インターンシップ経由での就活」がいかに有利であるかを理解し、実感したからであり、さらに、コロナ禍のなかで、今後は業績を悪化させた企業を中心として、企業側の採用意欲が大きく減退していくことを危惧しているからである。

就活の「ニューノーマル」なのか

 こうした状況を、どう捉えればよいだろうか。はたしてコロナ禍において、就職活動は“激変”したのか。

 確かに、会社説明会や面接等の方法は、一気にオンライン化した。学生側にとっての「売り手市場」には、明らかに陰りが見えはじめてきた。それはそれで、もちろん大きな変化であり、“変化”はあったと言える。しかし、より本質的なところでは、企業側も学生側も、「新卒就職」という仕組みと慣行を大前提として行動し、それを変えるのではなく、むしろ“しがみつこう”とした点において、実際には何の変化も起きてはいないとも見なせるのではないか。

 企業側は、説明会や面接の手法の変更は強いられつつも、例年どおり、他社に遅れることなく、自社が欲しいと思う学生を予定どおりに採用すべく、奔走した。さらには、翌年に向けた採用活動のルーティーンからはずれないように、夏以降のインターンシップの実施を決めていった。オンライン面接だけで内々定を出すことに躊躇はなかったのか、オンラインで実施するインターンシップに何が期待できるのかといった点について、企業内でどれだけの議論が積まれたのかは、残念ながら外部にいる者には聞こえてこない。あくまで推測でしかないが、コロナ禍の混乱のなかで、各企業にとっては、そんな(本質的な)ことを議論している余裕などなかった、のではなかろうか。

 他方で、学生側も、コロナ禍が強いた自粛生活のなかで内省を深め、働くことや就職についての自らの考え方や価値観を見つめ直して、就活に向かう姿勢を大きく変えたといった学生は、そう多くは生まれなかったのではないか。すでに半ばは就活に心身を突っ込んでいた4年生はもとより、3年生においてさえ、学生たちは、突然の状況の変化にたじろぎ、動揺したがゆえに、目の前にある「確かに見えるもの」(インターンシップ)にしがみつこうとしたのではないか。

 こうした企業側、学生側の双方の動きを見ていて、筆者は、これだけの災禍にもかわらず、「新卒就職」という“ベルトコンベア”は、走りながらも部品を取り替え、見事に動き続けたのではないかという印象を強く持つようになった。企業側は、部品の交換を不器用にこなしながらも、ベルトコンベアだけは絶対に止めないように対応した。学生側もまた、このベルトコンベアに乗ることのみが、自らの卒業後を保障するものであるという、新卒就職の“教義”を頼りにしながら、状況に対応しようとしたのである。

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筆者

児美川孝一郎

児美川孝一郎(こみかわ・こういちろう) 法政大学キャリアデザイン学部教授

1963年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て、1996年より法政大学に勤務。2006年より現職。専攻は、教育学(キャリア教育、青年期教育)。日本教育学会理事、日本教育政策学会理事。主な著書に、『若者はなぜ「就職」できなくなったのか』(日本図書センター)『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)『まず教育論から変えよう』(太郎次郎社エディタス)『夢があふれる社会に未来はあるか』(ベスト新書)『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)など。 @Komikawa_1963(twitter) https://www.facebook.com/koichiro.komikawa

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです