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被爆3世を撮る(3)なぜ平和教育は陳腐化するのか

益田美樹 フリーライター、ジャーナリスト

「トラウマ感染」を乗り越えられるか

――戦争体験者を直接知る世代が今、考えるべきことは何でしょうか。

 「家族内での戦争体験の継承には、問題もあります。戦争体験は個別的、主観的ですから、一般化しにくいという難点がまずあります。また、加害体験はあまり語られない。実際、『戦争は痛快だった』という体験者の声もあったはずですが、戦後は抑制されていた。いずれにしても、個人の体験が家庭で語られる時には、バイアスがあるでしょう。それが、家庭内の記憶の継承の限界性です」

 大げさだったり、ある部分を糊塗したり。そうしたバイアスがあったとしても、家庭内の話である限り、史実と照らし合わせた検証はしにくい。

 「今考えるべきことは、こうした限界がありながらも、家族内の記憶の継承には、やはり意義がある、ということでしょう。受け継ぐ世代に当事者性が立ち上がることがあるからです」

拡大広島平和記念資料館で=2019年8月(撮影:高田昌幸)

 「もう一つ、考えるべきことがあります。それはトラウマの問題。トラウマに感染しない限り、本当の体験は継承されないのではないか、と私は考えています。なぜ、平和教育が陳腐化するのかという議論にも関係します」

 虐待などの過酷な体験で起こるトラウマ。その体験を聞いた人が、語られた過酷な話をも受け止めるがゆえに、自分もトラウマで苦しむことになる、というのが「トラウマの感染」だ。

 「今はトラウマになってしまうのが嫌だという理由で、教育現場では、過酷な体験を見ない・見せない傾向がすごく強くなっている。人の心を揺り動かすようなもの、例えば、漫画『はだしのゲン』や、広島平和記念資料館の被爆人形がそうです。しかし、本当の継承とは、トラウマ感染を経て、自分でその危機をくぐり抜け、体験の意味付けをしていくことなんです。それが戦争体験継承の核心ではないかと思います」

 「家族の中で体験を聞くと、トラウマ感染を乗り越えることができないかもしれません。他方、次世代に一定の情報伝達を繰り返すことが継承とイコールでもありません。では、どうやって戦争体験を継承していくのか。聞いた体験を自分で意味付けしていくことが重要なんです。つまり、主体性を抜きにして、この問題は考えられないのです」(おわり)

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筆者

益田美樹

益田美樹(ますだ・みき) フリーライター、ジャーナリスト

英国カーディフ大学大学院修士課程修了(ジャーナリズム・スタディーズ)。元読売新聞社会部記者。著書に『義肢装具士になるには』(ぺりかん社)など。フロントラインプレス(Frontline Press)所属。