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「幻の五輪の日」を乗り越える選手たち 2度目の「1年前」からの再始動

増島みどり スポーツライター

オンラインで会見する飯塚翔太=2020年5月28日

4カ月遅れの今季初戦 飯塚翔太、スケジュール帳白紙の理由

 梅雨明けと同時に猛暑に見舞われた8月1日、自身の故郷でもある静岡の陸上県選手権(草薙総合運動公園)で、リオデジャネイロ五輪男子400㍍リレー(2走)で銀メダルを獲得した飯塚翔太(29=ミズノ)が今季初戦に臨んだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、五輪選考会になるはずだった日本選手権も中止に。影響はどの競技でも大きい。しかし陸上のような記録競技にとって、選考会にピークを合わせた綿密なスケジュールを白紙にする痛手は大きい。五輪どころか、シーズンさえ始まらなかったこの数カ月の打撃は、はかり知れないほどの経験だったはずだ。

 関係者の努力でようやく実践の場が設けられた形に、飯塚は「緊張や不安より、陸上を始めた頃のようにレース前にワクワクしましたね」と言う。本職の200㍍は予選1本で決勝は出場を取りやめたが、待望の今季初レースで20秒70(向かい風0.5㍍)の大会新記録をマーク(自己記録20秒11)した。2日には、100㍍にも出場し10秒13とこれも大会新記録に。17年にマークした10秒08にはまだ遠いが、昨年は虫垂炎、肉離れに苦しみ、今季はコロナウイルスと、かつてない長いブランクから重い1歩を踏み出した。

 「スタートを切った瞬間にスイッチも入った感じでした。感覚が鋭くなったというか、血が巡り出した感じがする」と、東京五輪の標準記録20秒24への手ごたえは掴んだようだった。

 本来なら、2日に行われるはずだった東京五輪の200㍍予選に合わせ、1日は全ての準備を無事終えて集中している頃だった。選手たちの五輪への思いやアスリートの教示を代表するように、飯塚は明かした。

 「手帳も、カレンダーにも、五輪当日を目指したスケジュールは実際にびっしり書き込んでありました。気持ちの問題なんですが、新しい日程はあえて書き込まず、20年のオリンピックのレースが終わったら、すべて更新しようと思っていました」

 2度目となる五輪1年前が始まり、飯塚のスケジュール帳はやっと更新される。

 ささやかな日常の風景だが、スケジュール帳をずっと更新できなかったという本音に、選手の苦悩を改めて教えられるエピソードである。

新天地を求めた再スタートにかけるサニブラウン

 100㍍で、日本人初の9秒台(9秒98)をマークした桐生祥秀(24=日本生命)も同じ頃、今季初戦に挑んだ。山梨・富士北麓公園陸上競技場で行われた北麓スプリント100メートルに出場し、決勝では10秒04(追い風1.4㍍)をマークして1着。予選の10秒12からタイムを伸ばし、昨年の9月以来とは思えぬ好調さを強くアピールした。

 初戦から、まるでレースを重ねてきたシーズン終盤のような安定した走りで、自身19回目となる10秒10の突破(9秒台を含む)を果たしたが、「ベスト(9秒98)を狙って走ったので少し残念」と、不満な様子を見せる貪欲さも。初戦を終え、今後のスケジュール、課題が明確になったと手ごたえを示した。

 9秒97の日本記録保持者、サニブラウン・ハキーム(21)も7月31日に、在籍している米フロリダ大の休学を発表した。ハキームが所属するマネジメント会社「UDN SPORTS」によれば、今後は同じフロリダにある「ダンブルウィードTC(トラッククラブ)」に所属し、コーチも変える。

 高校を卒業後、フロリダ留学をする前に指導を受けていたレイダー氏に改めて師事し、新たな環境下で東京に向かって再スタートする。新しいクラブには、

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