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障害者withコロナ「感染リスク」と「暮らしにくさ」

ユニバーサルマナー講師・岸田ひろ実さんに聞く(上)

市川速水 朝日新聞編集委員

家から一歩も出ない日々

 40歳で下半身不随になった、人生半ばからの車いすユーザー。ダウン症の息子と暮らす。

――岸田さんの生活はコロナ前と後でどう変わりましたか。

 「これまで、多い時は年に200回近く全国で講演したり、国や自治体関係の会議に出て意見を述べたりしていました。体力的に大変になってきたので最近は減らしていたのですが、それでも週に2回以上は人前で話していましたね。

 2020年に入って3月ぐらいから、在宅で仕事をするようになりました。みなさんが在宅勤務をするようになる少し前からです。緊急事態宣言が解除された時にちょっと外に出てみたのですが、それも一瞬。感染者が増えてしまい、また在宅生活に戻りました。ほぼずっと家にいます」

――自宅から一歩も出ない日も?

 「スーパーマーケットに少しだけ食料品の買い出しに行ったこともありますが、それもヘルパーさんにお願いしつつで、本当に家から一歩も出ない期間が1カ月近くありました。

 私がリモートを比較的早く始めたのは、基礎疾患がある場合は、感染すると重症化するリスクが高いと聞いたからです。私の場合は人工血管だし、体力も普通の人より少し劣ります。ダウン症の息子にうつったらどうなるかも心配で。ダウン症の特徴の一つに、寝ている時に呼吸しづらくなる人が多いらしくて、ダウン症の人も重症化する可能性が大きいらしいと専門家に言われました。さらに一緒に暮らす母が80代と高齢。家の誰かが感染すれば、全員が重症化する危険がある。

 そういうことを聞くと、外に出づらい、できる限り出ない方がいいのかなと思います」

拡大ミャンマーでユニバーサルマナーの講演をする岸田ひろ実さん=2016年11月、筆者撮影
――講演の機会もしばらくなったわけですが、障害者問題への関心という視点でこの数年間を顧みたとき、聴衆や社会の意識が高まってきたという感触はありましたか。

 「大いにありますね。まず、講演やシンポが東京や大阪だけでなく、全国的に、地方でも増えたことです。中国・四国地方のシンポのパネリストにも呼んでもらい、主に交通機関を対象にどうやってユニバーサルデザイン(UD、バリアフリーや車いす、表示の色づかいなどあらゆる人に優しいデザイン)について話し合いました。障害のある方も外に出やすいように、みなさんと考える機会が本当に増えました。

 もちろん東京オリンピック・パラリンピックが決まった影響が大きかったですね。オリ・パラを機に、海外から大都市だけでなく地方にも人がたくさん来られるだろうということで。2019年には、秋田の仙北市でも海外や障害者が来た時の対応をめぐるシンポがあり、呼んでいただきました」

――シンポなどでは、どんな立場で意見を述べられるのですか。

 「私はかつて健常者だった車いすユーザーの一人ですが、決して障害者寄りではなく、中立というか、障害者側にコミュニケーションで歩み寄っていきましょうという立場で話をすることが多いと思います。歩み寄っていったうえでゴールを決めていきましょう、というところでお話をさせていただいています。

 障害者だからこんなことをしてほしいとか、こちらがこうやるべきだということではなくて、障害のある方が、どんなことに困っていて、一方で障害者でもどんなことができるかとか。

 障害者が何を求めているか、そこへ興味をもつことで問題を知ってもらい、そこから出る答えをゴールにしています。まず『何かお手伝いできることはありますか?』と声をかけることで歩み寄りが始まるのです」

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

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