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「リモート」で障害者を街で見ることが減っていく

ユニバーサルマナー講師・岸田ひろ実さんに聞く(下)

市川速水 朝日新聞編集委員

 『障害者withコロナ「感染リスク」と「暮らしにくさ」』に続いて、ユニバーサルマナー講師・岸田ひろ実さんに聞くインタビューです。

 岸田ひろ実さんが所属する「株式会社ミライロ」は、2020年3月と6月、障害者それぞれ300人、400人前後に対して「新型コロナウイルスの流行で、何に困っているか」「買い物にもたらす影響」などについてアンケート調査をした。

 買い物形式の変化としては、対人の買い物について半数が「減った」と回答する一方で、デリバリーや通販なえどの接触の少ない買い物が大幅に増えていた。買い物時の困りごととして「感覚過敏でマスクの着用ができない」と、ウイルス対策ができずに買い物に行きづらいというケースもあった。

 また、逆に嬉しいこととして、「いつもと変わらず買い物袋に詰めましょうかと聞いてくれた」「流行前よりもジェスチャーが増えた」。

 さらに、外出全般について「介助者にサポートを依頼しては迷惑なのではないか」「障害に関連した理由でウイルス対策が万全でないことで特異な目で見られてしまうのではないか」と行動自体が萎縮してしまう懸念を挙げた人もいた。

岸田ひろ実(きしだ・ひろみ)
 1968年生まれ。「日本ユニバーサル協会」「株式会社ミライロ」の講師として高齢者や障害者への向き合い方を語る。40歳の時、大動脈解離の大手術の後遺症で車いす生活に。娘の奈美さんに「もう限界。明日死なせて」と打ち明けたが、「もう少し私のために生きて。2億パーセント応援するから」と奈美さんに励まされ、踏みとどまった。奈美さんは「100文字で済むことを2000文字でだらだら伝える」異色の作家として活躍中。

コロナ禍で「頼みづらい」社会に

――このミライロの2回の調査結果をどう見ますか。

 「調査対象の障害の種別は肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、精神障害、内部障害、発達障害、知的障害と様々です。本当に、何となくは分かっているつもりだったのですが、自分と違う障害がある方の悩み事を改めて知った次第です。

 例えば弊社にも全盲のスタッフがいますが、買い物とかしづらくなって、どうしても手引きが必要で、それを頼みづらくなったと言います。相手の体にも触るし、近くで会話もするし、濃厚接触になる。買い物したくてもサポートを頼みづらくてなかなかできないと。そもそも消毒液がどこにあるか分からないので消毒できないとか」

――様々な原因でマスクをかけると体に悪影響が出る人や過敏など外見では分からない障害が原因で、まるで社会的なマナーを守っていないように見えてしまう点もあるようですね。

 「アンコンシャス・バイアス(無意識に事実をゆがめて意識してしまうこと)という言葉を最近聞くのですが、決めつけないということ、きっと理由があるんだろうとそれぞれが想像力、違う視点を持って人と向き合わないといけないんだろうなということですよね。

 車いすの私も、スーパーに食料品を買い出しに行くと、今まではレジの方が出て来てサッカー台まで運ぶのを手伝ってくれていましたが、今はビニールシートに隔てられて、店員の方が『やりましょうか』と言ってくれることがものすごく減りました。気づかなくてやらないのではなくて、ソーシャルディスタンスとか接触を避ける感染リスクを考えると、こちら側も想像できるわけですが」

――やってくれないとすれば、どう対処しているのですか。

 「やってくれないのが分かったので、息子を連れていくことが多くなりました。一人の時は、『お手伝いお願いできますか?』と頼む必要がありますが、相手の方はマスクで表情が分からないし、なるべく目を見て、快く引き受けてくれそうな人を探して頼むことにしています。

 週2回、ヘルパーさんに来てもらっていますが、自分は外にほとんど出ないから感染しているリスクはかなり低いと思いますし、ヘルパーさんとも信頼関係がありますが、窓は全開にしています。

 問題はまだあります。友人が通院介助のヘルパーをしているのですが、利用者さんもヘルパーを頼みづらい。病院に行けばコロナ感染者がいるかもしれない。ヘルパーさんにまでうつしてしまうかもしれないと気をつかって、頼みづらい。でも病院に行かなければならない。ヘルパーさんも利用者さんについていきたいが、本当に大丈夫なのかなと不安がありつつ、行きたくないとはいえない。二人の間がぎくしゃくしてしまうケースもあります」

講演が全部白紙に

――障害者差別解消法の施行(2016年)やユニバーサルマナー(すべての人に優しい心遣い)の急速な普及があっても、コロナ禍で後退せざるを得ないということなのでしょうか。

 「法律や条例があるからやらければならないということになると、また少し障害者に対して堅苦しさというか近寄りがたさがあるというか。なにか、あまり触らない方がいいだろうとか、そういう風潮にもなりがちなのですが、そうではなくて、コミュニケーションでどんどんと変えていきましょうというのが私の結論です。法律で障害者の人権を守るのは大切ですが、そうではないところで日本人ならではの優しさとか思いやりを存分に使うというところでお互いのコミュニケーションを図りながら解決していきましょうね、と私たちは伝えているわけです。

 言い過ぎかもしれませんが、ユニバーサルマナーというのは法律と同じように大切なことだと私たちは思っています。

 確かに今、障害者問題どころじゃないよなと思う人が多くても仕方ありません。半面、7月に再び感染増の波が来るまでは、9月からどんどん講演してくださいという声もいただいていました。障害者に関することに興味がある企業さんがたくさんあるんだなと思っていたところで、また飲食店とか大変なことになって。決まった講演が全部白紙に戻っています。一方で、別な懸念も出ています。

 リモートでの連絡が進んだこともあって、健常者も障害者も街に出なくなっています。障害者を外で見る状況が、さらにこれから減っていくのではないでしょうか。そうすると、障害のことがよく分からない、障害者へのサポートができないというオリ・パラ決定の前に戻ってしまいます。せっかく進んだユニバーサルデザイン(UD、すべての人に優しい街や施設のデザイン)が、後退はしないでしょうけれど、進む勢いが鈍ってしまうのではないかと危機感を持っています」

――ミライロでは、聴覚障害に対するチャット・通訳やタクシー乗車の際に障害者手帳アプリを見せれば済むといったサービスを始めましたが、コロナ時代にこういったIT関連も進化しているように見えます。

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