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初の陸上競技会開催で分かった国立競技場の評価とは

増島みどり スポーツライター

拡大女子1500メートルで日本記録を更新した田中希実=2020年8月23日、国立競技場、池田良撮影

聖地・日本新記録第1号は、将来の陸上界をリードする20歳のホープ

 東京五輪のメイン会場となる国立競技場に、つかの間だが競技会にみなぎる活気が戻った。本来ならば、7月24日の五輪開会式で国内のみならず世界中の注目を浴びるはずだった「スポーツの聖地」が、競技で使用されたのは今年元日、サッカー天皇杯決勝(鹿島対神戸)のみ。その後、コロナ禍で五輪が1年延期され、ナショナルスタジアムは眠ったまま周辺も含めて静まりかえっていた。

 8月23日、「五輪の華」と呼ばれる陸上競技としては初の本格的な競技会セイコー・ゴールデングランプリが行われ、ほとんどの大会がキャンセルされ、一時トレーニングもできなかった国内の有力選手が揃った。1500㍍に出場した20歳の田中希実(のぞみ、豊田自動織機TC)は4分5秒27と、従来の日本記録を14年ぶりに、しかも一気に2秒59も短縮する気持ちを込めた日本新記録を樹立して優勝。選手たちの五輪開催への強い思いを象徴するかのような日本新第1号に、田中はレース後「無我夢中だったのでレース中の記憶がなくて。この1本に日本記録をかけて走った」と、堂々と答えた。

 2018年U-20世界選手権3000㍍で金メダルを獲得した逸材は同志社大に在学中する。しかし駅伝強化が中心の大学陸上部ではなく、トラックでも世界と競う選手を目指しクラブチームに在籍する。

 ジュニアから大きな目標を追ってスタートを切った昨年は、ドーハ世界陸上5000㍍に出場し、予選、決勝ともに自己新をマーク(決勝14位)。格闘技とも言われるトラック種目で国際レースの洗礼を浴びたのだろう。予選後、スネやひざをスパイクされ、傷口からかなりの血が流れていた。「大丈夫か」と指摘されると、「あ、血が出てますね」と、他人事のように平然と答える強さが印象的だった。153㌢の身長はレース中、集団に埋もれたが、あの2レースで身に付けた強さ、自信が、新しい国立競技場での日本新1号につながったに違いない。

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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

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