安倍政治に敗北したメディア(中)議論が消えた社会でメディアは何をしてきたか
2020年09月01日
敵・味方を峻別する安倍政治にからめとられたメディアの見るに堪えない姿/安倍政治に敗北したメディア(上)
安倍晋三首相は任期途中で辞任を表明した。持病の悪化と任期を残しての突然の辞意という点では、第1次安倍政権の終わりと似ている。だが、第1次と第2次以降の安倍政権には決定的な違いがある。
第2次以降の政権は7年8カ月におよぶ長いもので、敵と味方を峻別する分断対決型の政治手法をとる安倍政治が社会に穿(うが)った亀裂は深い。政治や社会が分断され、民主主義の根幹ともいえる議論が消えた。本来、議論のステージとなるべきメディアはこの間、何をしてきたのか。「安倍政治に敗北したメディア(中)」では安倍首相の「歴史認識」を手掛かりに考えてみたい。
安倍内閣は2015年8月14日、臨時閣議を開き、戦後70年の首相談話(安倍談話)を決定した。戦後50年の村山談話、60年の小泉談話に盛り込まれた「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「心からのおわび」といったキーワードを新談話で同じように使うかとのメディアからの問いに対し、安倍首相は「そういうことはございません」と明言していた。
歴史認識にかかわる重要な談話で安倍首相の強いこだわりもあり、四つのキーワードには言及したものの、歴代内閣の方針を引用する間接表現で、「私は」という直接的な表現は使わなかった。さらに日本の過去に対する謝罪を、安倍談話によって「ひと区切り」としたいという認識を示した。
主語や対象を曖昧(あいまい)にした分かりにくい談話であったが、安倍首相をしてもここまでしかできなかったようだ。読売新聞(2015年8月16日朝刊)によると、「“おわび”が入っているじゃないですか」と気色ばむ高市早苗総務相に対し、「俺がやれるのは、ここまでが精いっぱいだ」と切り返している。
安倍談話のなかに「おわび」が入ったものの、保守層からの反応は悪くなかった。むしろ歓迎さえされた。在京紙の社説は、想定どおりだが、読売、産経、日経新聞が肯定的な、朝日、毎日、東京が否定的な論調になった。
ただ、ここで気になったのは朝日新聞(2015年8月15日朝刊)社説だ。「いったい何のための、誰のための談話なのか」と書きだし、次いで「この談話を出す必要がなかった。いや、出すべきではなかった。改めて強くそう思う」と述べ、「いったい何のための、誰のための政治なのか。本末転倒も極まれりである。その責めは、首相自身が負わねばならない」で結ばれている。
問答無用ともとれる単色の批判的な論調で、文脈にヒダとかタメといったものがなく、何にいらだっているのか、感情的で焦りすら感じる。安倍首相に過度に接近し、一体化した記事を書くのは論外としても、絶叫するかのごとく批判一色になる書きぶりもいかがなものか。
ここにも歩み寄って議論をすることができない、深い亀裂を感じた。
2020年8月15日、75回目の終戦の日を迎えた。未曾有のコロナ禍とも重なり、政府主催の全国戦没者追悼式が日本武道館(東京都千代田区)で開かれたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、参列者は昨年の1割以下の540人と過去最少となった。天皇、皇后両陛下や首相らが参列、参列者全員で1分間の黙祷を捧げ、日中戦争と第2次世界大戦で犠牲になった約310万人を悼んだ。
今上天皇の参列は2回目となるが、昨年同様に「深い反省」との文言を盛りこみ、「再び戦争の惨禍が繰り返されぬこと」を切に願うと述べた。天皇のお言葉で「深い反省」が言及されるのは6年連続だ。
安倍首相の式辞では、「積極的平和主義」が初めて盛りこまれたが、昨年あった「歴史の教訓を深く胸に刻み」との文言は消えた。歴代首相が言及してきたアジア諸国への加害責任や謝罪には8年連続で触れなかった。首相は2015年の戦後70年談話で「子どもたちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と主張している。
式辞の構成は昨年と大差なく、前半部分は戦没者への思いを語り、ほぼ同じ内容だった。終戦の日に本来、語らなければならない「加害と反省」について目をつぶる姿勢は変わらず、ことしは歴史を顧みる表現そのものも削除した。
政治が向き合うべき内容を、政治的な発言を許されない天皇が語る。社会の分断をくい止めて国民を統合しょうとする皇室の姿勢は、平成時代と同様だ。今回の追悼式の天皇陛下と安倍首相の言葉から、それが改めて浮き彫りになったように思う。
憲法の規定で政治の権能を有さない天皇が、想定される以上の役割を果たさなければならない現状について、危機感を抱く有識者も多い。メディアの日ごろの報道はこのことに無頓着だが、もっと敏感になるべきではないか。
日本も世界も、「自国(自分)ファースト」と「協調や連帯」をめざすふたつの潮流がせめぎ合う。コロナ禍の不安と恐怖のなかでは、いきおい「個体の生(自分一人の生命のこと)」がむきだしになって、「個人の利益」が優先される。
現在と戦前では時代背景が違うが、満州事変以来、
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