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練馬で同時に進む脱農業化と再農業化――街に緑は戻るか

武田徹 評論家

「果樹あるファーム」、体験農園、農サポーター……

 練馬で最大の生産量を誇るのは今や大根ではなく、キャベツだ。キャベツだけが唯一、市場に出荷され、他の作物は流通に流さず、自分の庭先で販売するか、農協の農産物販売所に出している。地域の人に食べてもらうための作物作りに農業のスタイルが変わったのだ。ちなみに公表されている農産物直売所は108カ所。それ以外に公表されていない庭先直売所がものすごく多くあるのは、近所の需要で手一杯なので客が来られても困るかららしい。

 生産する品種も変わった。ブルーベリーや柿、葡萄などの果樹を摘み取ったり、直売所で購入できる農園を練馬区では“カジュアルに農とふれあう”「果樹あるファーム」と名付けて、果樹作りに転換する際のイニシャルコスト(初期費用)とPR、防鳥ネットを作る時や摘み取りに来た客用の休憩スペースを作る際の支援をしている。

練馬にはブルーベリーの農園が多い=練馬区大泉町拡大練馬はブルーベリー栽培が盛んだ=練馬区大泉町

 果樹は普段は手間がかからないので兼業農家でも育てやすい。人手がかかる収穫作業は訪ねてきた客が摘み取ってくれる。自分でもいだ果実を持ち帰れるので好評だし、農家は参加費が収入になる。ウィンウィンに持ち込んでいる。ブルーベリー観光農園は令和元(2019)年度に区内で30園まで増えた。

 地域に農地を開放する「体験農園」も練馬の農家が考案したものだと毛塚課長が言う。「昔の農家は自分の畑に他人を入れるのを嫌がりましたが、今は考え方が変わった。生産緑地という考え方は農家自身が耕作することを前提としていたのですが、国との交渉の結果、体験農園が認められました」。

 練馬区内には農業体験農園が現在17園あり、一つの行政区では全国一だという。体験農園では農地を区画単位で体験希望者に提供する。農家にしてみれば、農地をすべて自分で耕す労働力が節約でき、一方で体験農園利用料が先にもらえるので収入の安定化が実現する。「果樹あるファーム」と同じ考え方だ。

 果実の摘み取りや耕作体験から更に踏み込んで、農業者を支える「ねりま農サポーター」を育成する教育事業も2015年に始めた。初級コースを終えるとサポーター登録ができる。サポーターになれば、かきいれ時に農家を助ける援農活動に入れるし、中級、上級と進んでゆくと畑の中に個人管理区画が持てる。サポーターの育成事業は、2015年から19年度までに85人を養成してきた。

 こうして新しい都市農業の取り組みを取材していて面白いと思ったのは

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筆者

武田徹

武田徹(たけだ・とおる) 評論家

評論家。1958年生まれ。国際基督教大大学院比較文化専攻博士課程修了。ジャーナリストとして活動し、東大先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大人文学部教授を経て、17年4月から専修大文学部ジャーナリズム学科教授。専門はメディア社会論、共同体論、産業社会論。著書に『偽満州国論』、『流行人類学クロニクル』(サントリー学芸賞)、『「核」論――鉄腕アトムと原発事故のあいだ』『戦争報道』、『NHK問題』など。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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