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コロナ感染者への差別と「いじめ」の構図

大人の偏見が子どもに影響、ネットでもいじめも憂慮

加納寛子 山形大学准教授

嫌がらせ、罵声、出勤拒否……広がった差別

 新型コロナウイルスについては毎日、感染者が何人、どこそこでクラスター発生、などと報じられている。多くの人にとって不安や恐怖、ストレスを感じる状況だが、特に感染者の少ない地方では、感染者差別が起きやすい。

岩手県内で県外ナンバーの車への嫌がらせ対策で配られた「在住者」を示すステッカー=2020年6月
 青森県では、お盆に東京から帰省した人をとがめ、早く戻るようにという手紙が玄関に置かれたという。半年近く感染者がゼロだった岩手県では、一部の飲食店に「他県者お断り」の張り紙がされた。また、佐賀県や静岡県など では、感染した人の家に石が投げ込まれるという事件も発生している。他県ナンバーの車を傷つけたり、落書きしたりする嫌がらせは全国各地で起きている。

県外からの来店を断る岩手県内の飲食店のチラシ
 コロナに感染したことで、近隣住民や職場の人々からの嫌がらせをされ、仕事を辞めたり、引っ越しを余儀なくされたりしている人もいる。このほかにも、患者の顔写真とともに「この顔にピンときたらコロナ注意」などと書かれたビラがまかれた▽院内感染が起きた病院に「火をつけるぞ」という脅迫電話があった▽訪問看護師が訪問先で停めていた車に乗ろうとすると「お前のせいで感染が広がる」と罵声を浴びせられた▽病院関係者が飲食店の入店を断られた▽医療従事者の子どもが学童保育や保育所で登園を断られた▽クラスターが発生した大学に通う学生が、バイト先から出勤するなと言われた▽コロナ感染がでた小学校に通う子どもが、塾で別の学校の児童に「コロナ小の隣に座りたくない」と言われた――などなど、コロナ差別の事例は数多い。

 感染が明らかになることで、周囲の人に攻撃されたり、ネット上で名前が拡散されたりすることを恐れて、きちんと検査を受けるのをやめてしまう人も既にいる。適切な治療や隔離がなされないのは、本人にも社会全体にもマイナスである。

 海外のいくつかの新聞社やテレビ局のコロナ関係の記事を調べたが、感染者が近隣住民から嫌がらせを受けたという事例は、ほとんど報じられていない。3月下旬に慶応大学、大阪大学などの心理学者が日本、米国、英国、イタリアの4カ国の人にウェブで「新型コロナに感染するのは自業自得だと思うか」という調査をしたところ、日本では「そう思う」と答える人が突出して多いことが分かった。日本には他の3カ国よりも、病気にかかった人を責め、排除しようとする不寛容さがあると分かる結果だ。

 個人攻撃は、感染者を特定し、公開し、責め立てようとするネット上の「感染者ストーキング」という形でも表れている。

 岩手県で初の感染者が出た際、テレビがその人が関東の方へキャンプに行っていたなどと報じていたが、公共のメディアがこうした情報を流すべきではないと私は考える。

 大事なのは、何が社会にとって必要な情報で、何が不要であるかをきちんと切り分けたうえで、エビデンスに基づいた正しい情報を多くの人が知ることだ。

 感染者がどこの誰か詮索したところで、野次馬的な欲求が満たされるにすぎない。むしろ、もし自分の愛する家族が感染者となったが場合、自分はどう接するかを考え、他の感染者に対しても自分の家族同様に気遣う思いやりを持つべきだろう。

大人の悪質な言動が子どもに影響する

岡山県が実施している「ダメ!コロナ差別」啓発キャンペーンのチラシ
 コロナ感染者を攻撃する行動は、ウイルスより悪質である。そうした大人たちの言動は、少なからず子どもたちに影響する。

 家庭など周囲の環境によって、無意識のうちに植え込まれる偏見や差別感情のことを「アンコンシャス・バイアス(Unconscious bias、無意識の偏見)」という。コロナ禍の大人の態度が、青少年の心に「アンコンシャス・バイアス」を植え付けていないか危惧される。

 子どもたちのいじめは、大人の言動が発端になることがよくある。

 2011年の東日本大震災の後には、こんな事例があった。

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