権力との癒着の温床「記者クラブ」の「開放」その先にある「廃止」
各メディアの見解は? 10年前の「会見・記者室開放」申し入れから考える
高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト
「権力とジャーナリズムの密接な関係」を可能にする根底には、記者クラブ制度がある。
記者クラブは、大手や各地域の有力なメディアの記者しか事実上加盟できない。その閉鎖性や特権的な仕組みは、長く、国内外の批判を浴びてきた。記者クラブをベースに取材する一部の当事者らを除いて、記者クラブの現状を「是」とする取材者や研究者はほとんどいないだろう。
では、全国各地のマスコミ幹部たちは記者クラブ問題をどう考えているのだろうか。

緊急事態宣言から一夜明け、記者会見に臨む菅義偉官房長官(中央奥)。首相官邸会見場の記者席の間隔がさらに空けられた=2020年4月8日
地方も含めた初の悉皆調査
「国境なき記者団」(本部・パリ)が毎年公表している報道の自由度ランキングによれば、日本は180カ国中66位である(2020年4月)。民主主義の先進国とは思えない低迷ぶりには、閉鎖的な記者クラブの存在も大きい。
記者クラブは事実上、大手マスコミや各地の有力メディアに所属する記者しか加盟できないため、「閉鎖的」「独占的」という問題を抱えてきた。それに加え、権力側との癒着の温床になっているとも指弾されている。双方がインナーサークル的な関係をつくりあげ、記者の中には当局者に遠慮したり、二人三脚を組んで一体化したりする事例が引きも切らないからだ。警察記者クラブの所属記者が「ペンを持った警察官」と揶揄されるケースも多い。
目立つ事例としては、「指南書事件」がある。発生は2000年初夏。森喜朗首相の「神の国」発言に対し、首相官邸記者クラブ所属の記者が釈明会見の切り抜け方を伝授するペーパーを作っていたことが発覚したケースだ。20年前の出来事ではあるが、政治権力とジャーナリズムの関係を示す象徴的事件として前回の論座『官邸記者クラブで20年前に起きた「指南書事件」が問いかけるもの』でも触れた。
その10年後の2010年5月、全国各地の新聞社とテレビ局、ラジオ局の計231社に対し、「記者会見や記者室を独占せず、フリーランス記者などに開放する考えはあるか否か」を問う調査が実施された。231社という数は地方も含め、当時のマスメディアを網羅していたと思われる。
実施したのは任意団体「記者会見と記者室の完全開放を求める会」(会見開放の会、代表・野中章弘氏)である。筆者もそれに加わり、故・日隅一雄弁護士らの協力を得ながら、「会見開放」をメディア企業にどう実行させるかなどを協議した。その一つがこの調査である。
2010 年という年は、民主党政権下において大臣会見へのフリーランス記者らの参加が少しだけ実現した時期でもある。
調査結果は記者会見を開いて公表したものの、中身を詳しく報じるマスメディアはなかった。いま、悉皆(しっかい)調査の中身を詳報するのは、記者クラブ問題に関してメディア企業幹部が個別に回答した実例がほとんどないからだ。ネット上を探してもそれは見当たらない。回答が「建前」であるにしても、公表を前提とした調査に対応したのだから記録として残しておくことには、一定程度の意味はあろう。