戦前や戦中に活躍した言論人・清沢洌氏の伝えたかったこと
2020年09月22日
「令和おじさん」と持ち上げられた菅義偉氏が首相に就任し、菅内閣が発足した。
それに関する報道は、マスコミの長き“伝統”に則ったスタイルだった。人事や派閥の意向などによって、何か新しい大きなことが起きるかのような報道である。そして、新政権が発足すると、“新聞の伝統様式”に従って新閣僚の顔ぶれが似顔絵付きで各紙に載った。
旧態依然としたこれらの報道にどんな問題が潜んでいるのか。戦前の新聞批判も交えながら、この間の報道を振り返ると――。
自民党の総裁選で菅氏が新たな総裁に決まった9月14日。当然のことながら、翌日の15日朝刊は、各新聞とも大展開でこれを報じた。朝日、毎日、読売、毎日の各紙1面見出しを並べてみよう。
「自民総裁に菅氏 岸田・石破氏に圧勝 得票7割 あす首相選出」
「自民総裁に菅氏 党要職 派閥で分け合う 二階・森山氏再任 政調会長に下村氏」
「自民総裁に菅氏 得票7割超 337票 あす新首相に選出」
「菅氏 新総裁 安倍政治 異論なき継承 あす首相氏名へ」
さて、どれが読売でどれが朝日か。見出しで判断がつくだろうか。答えは上から順に、読売、朝日、毎日、東京である。
次は各紙の2面と3面だ。大きな出来事があった場合、新聞はここで背景や問題点などを展開する。各紙の特徴が色濃く出るページと言ってよい。
では、同じ日の各紙見出しを見てみよう。ただし、記事の本数も多いので主たる見出しに限定して再掲する。
「菅氏 圧勝で自信 無派閥 党内基盤に弱さ」「岸田氏2位確保 石破陣営落胆広がる」
「圧勝の裏 うごめく派閥」「菅カラーどう打ち出す デジタル庁・携帯値下げに意欲」
「『完勝』菅氏 人事試練 支持5派閥 優遇迫る」「解散『コロナ見極め』」
「路線の『振り子』動かず 党内の多様性失われ」
どの見出しがどの新聞社か判別できるだろうか。こちらも1面と同じく、読売、朝日、毎日、東京の順に並べた。1面と比べると、それぞれの個性が出ているようにも見える。
特に1面で「安倍政治 異論なき継承」との見出しを掲げた東京新聞は、2面と3面でも「党内の多様性失われ」という見出しの記事を掲載。残り3紙と違って、安倍・菅路線に異を唱える形になっている。
他方、見出しを見る限りでは、読売、朝日、毎日の3紙には大きな差がなく、さほどの個性は感じられない。「客観的事実に即している」とも言えるが、「無難な紙面」とも言える。
菅政権が発足した翌日の17日朝刊では、各紙に「新閣僚の顔ぶれ」が載った。新政権発足時には全国紙か地方紙かを問わず、必ずと言っていいほど、各新聞にはこうした記事が掲載される。片側1面をほぼ埋め尽くし、なぜか閣僚の似顔絵を使うケースが多い。また、横顔の掲載は片面のみで、見開きのケースはほとんどない。勢い、1人当たりのスペースが狭くなり、紹介文は1人200字前後しかない。これでは、経歴や「趣味はテレビドラマ鑑賞」「好物はステーキ」といった事柄しか書けないだろう。
筆者が以前に調べたところ、こうした紙面づくりは、少なくとも1970年代には始まっている。半世紀近く続く、“マスコミの伝統芸”と皮肉りたくなるほどの不変ぶりだ。
それは同時に、「政局報道」と裏表の関係にある。マスコミの政治部は政策取材ではなく、官邸記者クラブをはじめ、平河クラブ(自民党)、野党クラブなどの各記者クラブをベースに連綿と政局取材を続けてきた。社会課題や政策よりも「政局」重視の報道。それこそが、“マスコミの伝統芸”と言ってよいかもしれない。
一内閣や政党の人事をメディアはどうとらえてきたのか。そこにはどんな問題が潜んでいるのか。大いに参考となる評論を紹介したい。
戦前や戦中に活躍した言論人・清沢洌氏(きよさわ・きよし、1895〜1945年)の一文である。
戦前、総合雑誌として名高い存在だった「日本評論」の1936年12月号に、清沢氏は「最近の朝日新聞を論ず」という一文を寄稿した。リベラルな論調で知られた当時の朝日新聞が「2.26事件」などを契機として次第に転向していく姿勢を批判する内容である。その中で、清沢氏はこう書いている(仮名遣いなどは原文のママ)。
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