
大村勇貴さんは大学生時代に松崎町をめぐり、この地を舞台にした絵本『うーちゃんのまつざき』を制作した。写真は龍が登場する場面
少し前の話になるが、7月16日付の朝日新聞(夕刊)に、京都アニメーションの放火事件で犠牲になったアニメーター大村勇貴さんゆかりの静岡県松崎町が紹介されていた。大村さんは大学生時代、在籍する大学と同町との連携事業が縁で訪れ、この地を舞台にした絵本を制作し、町立図書館に寄贈したと伝えている。
伊豆半島の先端近くにある松崎町は、駿河湾を臨む半農半漁、そして観光の町である。狭い耕地を利用した棚田や、「世界でいちばん富士山がきれいに見える町」を宣言した海辺の景勝、処々に湯けむりあげる温泉など、観光資源も変化に富む。最近では、年配者が運営する食事処が話題になり、多くの観光客が訪れる。人が人を呼ぶ、もうひとつの観光も見逃せない。
希少な「なまこ壁」190棟、くらしに溶け込む

なまこ壁に囲まれた中瀬邸とときわ大橋(手前右側)=筆者撮影
松崎町には、伊豆急下田駅からバスで約50分、マイカー利用なら東名・沼津IC(または新東名・長泉沼津IC)から約1時間40分で着く。
町の中心に那賀川が流れ、「なまこ壁」と呼ばれる白と黒の対比が美しい独特の壁を持つ建物が続く。黒い平瓦を菱型に組んで目地に白い漆喰を盛り上げるように塗り、そのもっこりした形状が海の生き物のナマコに似ていることから、その名がある。
なまこ壁は、防火、防湿、防風などの効果があり、明治時代から造られたが年々、減少。現在も伊豆地方一帯で見られるが、特に松崎町に多く、町観光協会の話では現在も190棟ほどが残されているという。下田方面から那賀川沿いの桜並木を過ぎて町中に入ると、この壁が目に入り、松崎に来たという思いを強くする。
川に面して立つ「中瀬邸」(入館料100円)もそのひとつで、明治20(1887)年に建てられたかつての呉服問屋だ。土蔵と母屋がなまこ壁作りになっている。中瀬邸の前には、ときわ大橋がかかる。橋の両側の欄干にもなまこ壁が施され、さらに桜の絵などが漆喰で描かれている。
松崎の町は、なまこ壁と漆喰の里とでも呼びたいほどにその造形物に出合う。何故なのだろうか。