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本間龍「東京五輪開催は99%あり得ない。早く中止決断を」

スポンサー企業に名を連ねた新聞社に五輪監視は不可能だ

石川智也 朝日新聞記者

あらゆる判断材料が「中止」を示している

――安倍晋三前首相は2年あるいは4年延期論を振り切り、「ワクチン開発はできる」と来夏開催を早々に決めました。景気対策の効果をより早く出したいとの思惑があり、小池百合子都知事とも利害が一致したようです。しかし、NHKの7月の世論調査では、「さらに延期すべき」が35%、「中止すべき」31%、「来夏に開催すべき」26%(朝日新聞の調査では来夏開催は33%、再延期32%、中止29%)と、国民の意見は割れています。

 東京五輪の開催はワクチンや治療薬の開発が間に合うかどうかにかかっていますが、可能性はきわめて低いでしょう。世界保健機関(WHO)は今月、コロナワクチンの普及は来年中盤以降との見方を示し、9月8日には世界の製薬・バイオ企業9社が拙速な承認申請はしないという共同声明を発表しました。

 いくら政治の圧力で開発を急いでも、重篤な副作用が発生して訴訟沙汰になれば会社は潰れる。当然の判断です。

 政府と都、組織委は9月4日に合同のコロナ対策調整会議を開きましたが、入国した選手を「隔離」して複数回のPCR検査を受けさせる、といった案が話し合われたらしいですね。でも選手やコーチ、関係者を合わせて数万という数の人の健康管理を徹底するのは、きわめて困難です。

 また、事前合宿をする各国の選手を迎える「ホストタウン」が全国400以上で決まっていますが、多くはコロナ専用病床などない小さな自治体です。地域住民が不安なく受け入れられる態勢をこれから準備できるでしょうか。

拡大StreetVJ/Shutterstock.com

――IOCと日本側は「簡素化」について話し合いを進めていますが、報道によれば、開閉会式の縮小にはIOCは否定的とのことです。簡素化の内容にもよりますが、どうなるにせよ、延期による追加費用は3千億円とも5千億円とも言われています。

 IOCのバッハ会長は「熱狂的なファンに埋め尽くされた会場を目指している」と言っていますし、無観客や客席大幅削減での開催は、入場料収入や巨額の放映権収入をあてにしている組織委やIOCにとってはあり得ない選択です。

 コロナ対策は「簡素化」の真逆をいくものです。選手村専用の感染検査態勢や機器等の準備、選手や関係者専用の病院と語学力のある医療従事者の確保、各会場やバックヤードでの検温器や空気清浄機、扇風機などの設置、その運用のためのマンパワーの確保……こうした対策費を上乗せすれば、追加支出が5千億円程度で済むとはとても思えません。

 組織委はいまスポンサー企業への協賛金追加拠出を要請し始めていますが、組織委だけで負担しきれない追加費用は、一義的に開催都市の東京都が支払うことになります。つまり都民の税金で穴埋めするわけです。

――戦後最大とも言われる経済危機で、都はリーマン・ショック時の1860億円を大幅に上回る8千億円規模の緊急対策を発表しました。一方で財政調整基金は底を突きかけ、税収は1~2兆円の減収が予想されています。

 明日の生活に困っている人がこれだけ発生しているのに、さらに数千億円も投じることが、都民や国民に理解されるでしょうか。

 組織委の森喜朗会長は、中止した場合には費用が「2倍にも3倍にもなる」と言いましたが、その根拠を問われてもまったく明らかにせず、「たとえ話」とごまかしましたね。呆れる話です。バッハ会長は「再延期はない」という意向を示していますから、日本としてはなんとしても開催したいのでしょう。

 でもこのまま来夏の開催にこだわれば、「簡素化」の反対の巨額支出が発生し、「安心安全」とは反対の感染拡大への不安が高まることは、小学生にでもわかることじゃないでしょうか。

 それなのに、組織委も都も国も「予防措置を講ずればなんとか開催できるかも」「ワクチン開発が間に合うかもしれない」と期待を抱き、会場の賃貸料や組織委の人件費など莫大な出費を続けています。IOCはIOCで「2021年夏にこだわったのは日本だ」とすでに責任回避の予防線を張っています。

 あらゆる判断材料が「中止」を示している。いたずらに決断を先延ばして淡い希望を抱かせるのは、世界中のアスリートに対しても失礼です。早々に撤退の判断をすべきでしょう。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)、『住民投票の総て』(「国民投票/住民投票」情報室)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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