総括「記者クラブ」~権力とメディアの歪んだ関係(3)
2020年10月02日
権力とメディアの歪んだ関係。その根っこには、戦前から連綿と続く記者クラブ制度が横たわっている。制度のどこが問題か。問題点を10に絞って整理し、これまでの記事では問題点の1から6を紹介してきた。
・「記者クラブ」10の問題/〈1〉情報へのアクセス特権〈2〉メディアの談合〈3〉権力への同調
・「記者クラブ」10の問題/〈4〉権力と丸ごと一体化〈5〉縦割り取材〈6〉クラブに張り付く
今回は7から始めよう。
マスコミ企業内での本流は、概ね、政治部と社会部(警察・司法担当)だ。それらの担当記者の働き方は尋常ではない。そのベースには、長時間の張り付きを強いられる記者クラブ取材の在り方も関係しているのではないか。それが「問題点7」である。
前々回の記事の「問題点3」で示したように、マスコミで記者生活を始めた者は、入社から数年内のうちに必ずと言っていいほど警察担当となる。1年目から担当になるケースも相当多い。そして警察取材をきちんとこなせば、社内で「一人前」と認められる。
その過程では、昼夜を問わず、事件事故の取材を続け、「捜査員や警察幹部の懐に食い込む」「時間差スクープの記事化」「他メディアと少しでも違うネタの取得」などが重要だと叩き込まれる。
幹部宅を朝や夜に訪問する夜討ち朝駆けは当たり前。休日であっても事件事故関連で仕事に出る例は枚挙に暇がない。総労働時間は相当の長時間に及ぶ。東京の政治記者や中央省庁の担当記者なども似たようなものだ。地方で働く記者も例外ではあるまい。
そうした記者たちはほとんどの場合、記者クラブをベースに取材活動を続けている。これが「問題点6」で示した記者クラブに張り付く取材方法の実態である。
ただ、考えてみてもほしい。こんな職場環境に置かれたら、子育て中の記者や要介護の肉親を抱えた記者は、とても仕事についていけないだろう。こんな働き方に没頭できるのは、家庭の切り盛りを家族に存分に委ねることができる者だけではないか。
たいてい、それは男性である。結局、政治や事件事故などの枢要な取材現場から多くの女性は消えていく。
日本新聞協会の直近データによると、2019年4月現在、日本には1万7931人の記者がいた(加盟社96社の合計、雇用形態が正社員かどうかの説明はない)。そのうち、女性は3859人で割合は21.5%。およそ4人に1人にすぎない。女性の比率が20%を超えたのは、その前年2018年だ。つい最近である。2001年は10.6%(実数は2200人)だったから、およそ20年を費やし、やっと女性比率は10ポイント増になったわけだ。
総務省の2019年労働力調査(速報)によると、全産業における同年の正社員は男性2334万人、女性1160万人だった。女性比率は33%。日本ではもともと女性の正規雇用が少ないため、このデータはある意味、予想された内容でもある。
ただ、女性記者が全員正規雇用だと仮定しても、女性比率は全産業と比べて約10ポイントも低い。勢い、新聞社やテレビ局では幹部も圧倒的に男性上位だ。
記者クラブベースの取材に依存する割合が高い警察記者や政治記者などと違って、「文化部」「生活部」「校閲部」といった部署には比較的女性も多い。記者クラブの発表や独自ネタ探しに追われて早朝・深夜も働く政治担当や警察担当と異なり、記者クラブベースの取材に勤務時間の過半を割く必要がない。そのためか、子育てや家事を担うケースの多い女性には働きやすい環境だったからではないか。
記者会見で聞きたいことを聞く。その当たり前のことを実行しないケースが昔も今もあちこちに存在する。それは結果として何を導くか。「問題点8」のポイントはそこにある。
記者クラブに所属していると、さまざまな取材機会がある、オフレコ前提の「懇談」や「資料提供」など種別や様式はいろいろだ。公式の記者会見はその一部に過ぎない。
一つの記者クラブには、いくつもの有力メディアが加わっている。したがって、各メディアの幹部は現場記者に向かって「他社と差を付けろ」「記事や番組では独自色を出せ」といった指示を出し、現場もそれを当然のこととして受け止めていく。
それが高じると、どうなるか。
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