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「記者クラブ」10の問題〈10〉取材力の限りない劣化~決定権のない記者たち

総括「記者クラブ」~権力とメディアの歪んだ関係(完)

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

「発表報道」に覆い尽くされている現状

 取材力が大きく劣化していくと、紙面や番組はどうなるだろうか。

 ジャーナリストの岩瀬達哉氏による『新聞が面白くない理由』(1998年、講談社)や、NHK記者・大学教員を務めた小俣一平氏の『新聞・テレビは信頼を取り戻せるか』(2011年、平凡社新書)などによると、新聞ニュース面の記事面積や本数を調べた結果、その7割程度は当局の「発表」をそのまま報じたり、若干の補足取材を加えたりした「発表報道」だったという。

 「発表報道」の定義はいくつかあるが、筆者は『現代ジャーナリズム事典』(2013年、三省堂)の「発表ジャーナリズム」の項目において、以下のように記した。

 記者発表に基づく内容をそのまま伝える報道、あるいは情報源を発表に過度に依存する報道を、批判的に捉えた言葉。「発表報道」とも呼ぶ。大臣や中央省庁、経済団体、企業などは頻繁に「記者発表」を実施しているが、発表ジャーナリズムが極端な形で出現した例には、第二次世界大戦中の日本の「大本営発表」報道がある。2011年3月の福島原発事故の際も、政府や東電の言い分を伝え続けた報道に対し「発表ジャーナリズムに堕している」という厳しい批判があった。

 こうした発表報道の横行は、どこに問題があるのか。

 1つには、取材プロセスの問題がある。報道には通常、取材のきっかけとなる「端緒」から始まり、「追加取材」→「種々の情報の確認(=裏取り)・取捨選択」→「価値判断」→「記事執筆・番組制作」といった流れがある。

 発表報道では、こうしたプロセスの大半を発表に依存しているため、取材の流れは「端緒」(=発表)から一足飛びに「記事執筆・番組制作」に向かう。独自の着眼点などが欠かせない「追加取材」、発表者の意のままには報道しない点では必須の「種々の情報の確認=裏取りや取捨選択」などが抜け落ちているか、非常に薄い場合が多い。

 2つ目は、アジェンダ設定の問題だ。発表報道では、報道側の独自視点や問題意識は放棄され、「権力監視」機能は失われている。取材の端緒である「発表」のみで取材がほぼ完結するということは、社会の課題設定を当局側に委ねてしまうことでもある。

 権力・当局はメディアをコントロールしたいとの欲望を常に抱えており、発表に関しても「発表したい者が、発表したい時に、発表したい方式で、発表したい内容を発表する」ものだ。その舞台が記者クラブなのだ。

 したがって発表報道への過度な依存は、メディアをコントロールしたいという権力者の願望が実っている証左とも言えよう。要は、政治家や行政などのPRに記者クラブ加盟者・社がひと役買っているわけである。

 メディアが権力のPR機関になり兼ねないことに関しては、過去にも多くの警鐘が鳴らされてきた。全体主義の恐怖を描いた小説『1984』の作者であり、ジャーナリストでもあった 英国人のジョージ・オーウェル氏(1903~1950年)は以下のような有名な言葉を残したとされている。

Journalism is printing what someone else does not want printed;everything else is public relations.(ジャーナリズムとは、誰かが報じられたくないことを報じることである。それ以外は広報に過ぎない)

 また、元米国大統領のオバマ氏は2017年1月、退任を間近に控えた最後の記者会見で記者たちに向かってこう述べた。ジャーナリズムの役割を的確に認識していたからこその発言だ。

You’re not supposed to be(inaudible) fans,you’re supposed to be skeptics,you’re supposed to ask me tough questions. You’re not supposed to be complimentary,but you’re supposed to cast a critical eye on folks who hold enormous power and make sure that we are accountable to the people who sent us here,and you have done that. (あなた方は私のファンではなく、私を疑い、厳しく質問をすべきなのだ。私をほめるのではなく、巨大な権力をも持つ者に対して批判的な視点を持ち、私たちを選んだ国民に対する説明責任を果たさなければならない。あなた方はその責任を果たした)
拡大ホワイトハウスで最後の会見をするオバマ大統領=2017年1月18日、ワシントン

 権力はいつの時代も自らに不都合な情報を隠そうとする。誰からも指摘されていないのに、不正や不作為、不公正な出来事などを自ら進んで公表する権力者はそうそういない。そして、不都合な事実の隠蔽から権力の腐敗は始まる。

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筆者

高田昌幸

高田昌幸(たかだ・まさゆき) 東京都市大学メディア情報学部教授、ジャーナリスト

1960年生まれ。ジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授(ジャーナリズム論/調査報道論)。北海道新聞記者時代の2004年、北海道警察裏金問題の取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。著書・編著に『真実 新聞が警察に跪いた日』『権力VS調査報道』『権力に迫る調査報道』『メディアの罠 権力に加担する新聞・テレビの深層』など。2019年4月より報道倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会の委員を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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