メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

アメリカ人の心が荒れてしまった――トランプ政権で失われたもの

まさかと思うことが次々と現実になっていく

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 「あなたは選挙の後、平和的に権力を移行する覚悟がおありでしょうか?」

 9月23日、記者にこう質問されたドナルド・トランプ米大統領は、こう答えた。

 「何が起きるか、様子をみないと。郵便投票については、何度も苦情を言ってきた。郵便投票は、惨劇だ」。そして、こう続けた。

 「平和的な……移行は起こらない。はっきり言うが、続行されるだけだ」

トランプ大統領の時代になって、アメリカが失ったものとは Evan El-Amin/Shutterstock.com拡大トランプ大統領の時代になって、アメリカが失ったものとは Evan El-Amin/Shutterstock.com

 11月に行われる大統領選では、COVID-19(新型コロナウイルス)の影響で郵便投票がこれまでにないほど増えると予想されているが、トランプ大統領は全力をあげてそれを妨害しようと試みてきた。

 ちなみに2016年の大統領選では、本人もメラニア夫人も郵便投票をしている。郵便投票がこれまで不正選挙の原因となったという証拠も、一つもない。それがなぜ、いつの間にか「Disaster/惨劇」になったのか。

 郵便で投票を行うのは、一般的に、投票会場から離れた田舎に住んでいる低所得者、民主党支持層が多いとされている。また過去には、大統領選の投票率が高ければ高いほど、民主党候補が有利という統計も出ているのだ。

 郵便投票の用紙が首尾よく配達されれば、トランプ大統領の再選が危うくなるということを、本人はよく自覚しているのだろう。選挙前にこうして人々の頭に、「自分が選挙で負けるようなことがあったら、それは不正があったに違いない」という印象を、今から繰り返し繰り返し植え付けようとしているのである。


筆者

田村明子

田村明子(たむら・あきこ) ノンフィクションライター、翻訳家

盛岡市生まれ。中学卒業後、単身でアメリカ留学。ニューヨークの美大を卒業後、出版社勤務などを経て、ニューヨークを拠点に執筆活動を始める。1993年からフィギュアスケートを取材し、98年の長野冬季五輪では運営委員を務める。著書『挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で、2018年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。ほかに『パーフェクトプログラム――日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』、『銀盤の軌跡――フィギュアスケート日本 ソチ五輪への道』(ともに新潮社)などスケート関係のほか、『聞き上手の英会話――英語がニガテでもうまくいく!』(KADOKAWA)、『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)など英会話の著書、訳書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

田村明子の記事

もっと見る