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レジェンドたちがコロナ禍のスポーツ界から発信した力強いメッセージ

増島みどり スポーツライター

拡大川崎戦に先発出場した横浜FCの三浦知良=2020年9月23日、川崎市の等々力陸上競技場、伊藤進之介撮影

カズが打ち立てたもう一つの記録の意味

 J1横浜FCのFW・三浦和良が9月23日、首位・川崎との一戦(等々力陸上競技場)に先発出場し、53歳6カ月28日と、J1最年長出場記録(これまでは中山雅史=45歳2カ月)を大幅に更新する新記録を打ち立てた。後半11分までの56分間プレーし交代したが、Jリーグが開幕した1993年から27年、当時ヴェルディ川崎のエースとして初ゴールをあげた同じスタジアムで、新たな歴史を刻んだ。

 Jリーグのオフィシャルデータ「J STATS」が発表するトラッキングデータ(速報値)によると、降りしきる雨のなか、時速24キロ以上で1秒以上を走る「スプリント」回数はわずかに1回。両チームのGKを除けばもっとも少なかった。走行距離は.6,609㌔と、56分間のパフォーマンスとして平均的に走り切ったといえる。

 記者として驚かされるのは、J1へのブランク期間だ。最後にJ1でプレーしたのは、当時も横浜FCで40歳だった2007年12月1日の浦和戦で13年前までさかのぼる。この記録は単純にランキングにできるものではないが、カズの4680日ぶりとなるJ1復帰は最長のブランク記録でもある。水面下で準備を続ける信念について聞いた取材がある。

 「90分のうち出場はたとえ1秒でも準備をする。90分でも1秒でも、今がどんな状態でも次に向かって準備をするのがサッカーだから」

 56分間出場した氷山の一角に、出場しなかった4680日、氷の塊のほうを想像した。13年ぶりの出場は1人の努力で達成できるものではもちろんない。それでも、スポーツ界が苦境に立たされた今年、またこれからも続くだろうコロナとのせめぎ合いに、「氷の下でいつも変わらぬ準備をする」とは、とてもシンプルで強い、メッセージであったと思う。


筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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