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発達障害の子たちの「最初の一歩」を支える小児科かかりつけ医

増え続ける発達障害児。だが、専門医の数が少なくて……

松永正訓 小児外科医・作家

 私は、千葉市の中心部からやや離れた場所に小児クリニックを構える開業医です。開業前、大学病院で勤務していたとき、私は小児がんを専門とする小児外科医でした。外科医といっても、抗がん剤治療を行いますので、お子さんの感染症治療は日常的におこなっていましたし、喘息を合併するお子さんの手術もよくしたので、喘息の管理も苦手ではありませんでした。開業してから日々の診療に大きな苦労をしたことはありませんでした。

 しかし、私は発達障害について、医学生の頃に授業を受けたり、医師としてトレーニングを受けた経験がありません。発達障害は現在注目を集めていますが、その理由の一つは患者が急増しているからです。実際に患者が増えているのかは議論のあるところですが、少なくとも、発達障害の疑いのあるお子さんがクリニックをたくさん訪れるようになっているという現実はあります。

 今回、私は「発達障害 最初の一歩」(中央公論新社)という本を上梓しました(10月8日刊行)。なぜ、小児クリニックの開業医が発達障害の本を書くのかと不思議に思う人もいるかもしれません。その背景を書いてみたいと思います。

数が少ない発達障害の専門医

『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社、1500円)
 まず、発達障害を専門とする医者とはどういう人をいうのでしょうか。

 専門医は主に二つの領域の医師です。ひとつは、子どもを専門とする精神科医。もう一つはこころを専門とする小児科医です。残念ながらこうした専門医の数は極めて少なく、専門医のいる病院やクリニックでは受診までに数年待ちであると聞くことがあります。

 専門医が少ないことによって様々な問題が起きます。受診までに時間がかかるということは、子どもにとっても家族にとってもよくありません。発達障害は一刻を争う疾患ではないとはいえ、早期に診断をつけて、早期に子どもの特性を親が理解し、早期に療育を行う必要があります。

 さらに言えば、日常のちょっとした困りごとがあった場合、すぐにクリニックや病院を受診できないのは親には精神的な負担になります。

1歳6カ月児健診の大事な目的

 では、どうすればいいのでしょうか? それは、子どものかかりつけ医が発達障害に関して最低限の知識を身につけ、発達障害の医療の最前線に立つことだと思うのです。

 私が所属する千葉市医師会でもそういう問題意識があり、これまで勉強会を積み上げてきました。私自身も開業してからこの14年間で自分なりに勉強をしてきました。

 発達障害の最初のチェックは1歳6カ月児健診のときに行われます。この仕事を担うのは専門医ではありません。子どものかかりつけ医です。1歳6カ月児健診の目的のうちで最も大事なものは、発達障害の早期発見だといっても過言ではありません。

 お子さんが言葉や指さしなどの仕草を使って両親とコミュニケーションが取れるか? 同じ年代の子どもに関心があるか? おままごとができるなどの想像力はあるか? 何か同じことにこだわったり、興味が集中したり、反復したりしないか? そういったことを丁寧に診ていく必要があります。

 医師の方から「お子さん、発達がちょっと上手ではない部分がありますね」と声かけをさせていただくと、ほとんどの場合、「実は私も気になっていたんです」と答えが返ってきます。

発達障害が疑われた場合の三つの対応

Lightspring/shutterstock.com

 では発達障害が疑われる場合、どうすればいいのでしょうか。その疑いの程度を三つに分けて対応することになります。

 第一にちょっと発達が遅い場合です。

 このケースでは、お子さんとご両親の間でたくさん遊んでもらうようにお願いします。たくさん声をかけ、一緒に指さしをしてコミュニケーションの絆を太くしていきます。遊んだあとはお子さんとしっかり目を合わせるようにします。つまり、家庭とクリニックでフォローしていきます。

 第二に発達障害が疑わしく、言葉などが遅れている場合。

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