[46]「家なき人」に住民が声かけする街
コロナ禍で進む「路上脱却」の背景とは?
稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授
「長期路上」の人が立て続けにシェルターに入所
私はこれまで26年間、路上生活者の支援に取り組んできたが、支援関係者の間でも「長期間、路上生活状態にある高齢者の支援は難しい」と言われることが多い。体力が弱っているように見えて、早く路上生活から抜け出してもらいたいと支援者が働きかけても、「体が動けるうちは、自分でなんとかしたい」と言う高齢者は少なくない。
その背景には、長年の行政不信や人間不信、生活保護制度を利用することへのスティグマ(負の感情)、生活環境が変わることへの不安や抵抗感があると考えられている。
そうした事情を知っている私にとってみれば、この半年間で5人もの「長期路上」の人が立て続けにシェルター入所につながったのは、奇跡とでも言うべき出来事だった。
コロナ禍において、彼らはなぜ「路上脱出」へと踏み出すことができたのだろうか。その「秘密」を探ってみたい。
まず、コロナ禍が路上生活を続ける人に与えた影響について考えてみたい。
一部には、「普段からサバイバル生活をしている路上生活者は、非常事態には強いはず」という見方がある。
確かに河川敷などでテント生活をしている人の中には、畑を耕して自給自足に近い生活をしている人もいる。こうした生活をしている人たちは社会や経済の危機の影響を受けにくいかもしれない。
ただ、都市部の路上生活者は、安定した住まいを持たない分、逆に都市の様々な機能に依存している存在だと私は考えている。
例えば、緊急事態宣言が出されていた4~5月には、「図書館が休業になって、昼間の居場所がなくなった」という声が多く聞かれた。