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日本学術会議問題、菅野完氏がハンストで伝えたメッセージ

法を破った内閣総理大臣に対する「戦い」はどうあるべきなのか

藤倉善郎 ジャーナリスト

 10月1日。菅義偉政権が日本学術会議の会員候補6名の任命を拒否したことを『しんぶん赤旗』が報じ、一般メディアが追随した。翌2日から、著述家の菅野完氏が首相官邸前でハンガーストライキを開始。足かけ25日間。国会が招集された26日に、ハンストは終了した。菅野氏がハンストを通じて発したメッセージとは、何だったのか。

拡大台風のさなかもハンストは続いた(ハンスト6日目)=2020年10月7日、首相官邸前

なぜハンストだったのか

 〈菅義偉内閣総理大臣は、日本学術会議の新規会員の任命を拒否するという暴挙に出ました。これは、既存の法やこれまでの国会答弁に違反する明確な違法行為であると同時に、「学問の自由」「思想信条の自由」「言論の自由」などの、近代を形成する諸原則を踏み躙る、極めて野蛮かつ危険な行為であり、到底、看過しえません。〉(菅野氏のFacebookより)

 ハンスト開始の予告とともに、菅野氏は今回の件を「第二の滝川事件」と評した。1933年に京都帝国大学法学部・瀧川幸辰教授の講演や著書の内容を問題した文部省が同教授を停職処分とし、これに抵抗した法学部の全教員と学生が辞表や退学届を提出し抵抗した事件だ。

 さらに菅野氏は、「学問の自由」よりも「違法である」という点を重視した。

 日本学術会議法が定める「推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(第7条)について、逆に推薦に反して総理大臣が任命を拒否できるとする法解釈すらも存在しない。後に、日本学術会議会員候補について安倍政権下においても事前に政権からの干渉があったことが明らかになったが、それは水面下でのことだ。菅首相は今回、日本学術会議から提出された候補者名簿にあった6人について堂々と任命を拒否した。

 官邸前で菅野氏は、こう語った。

 「安倍政権ですら、集団的自衛権に関して憲法解釈の変更を閣議決定したり、黒川弘務東京高検検事長の定年延長に関連して、事後的とはいえ検察庁法の改正を試みたりした。善し悪しは別として、法や解釈を変更すればそれは違法ではなくなる。しかし菅内閣は日本学術会議に関して、法改正も法解釈変更もせず、堂々と法を破ってのけた。ナチスでも何でも、独裁者は自分の好むように法律を作ったり変えたりして自己正当化したものだが、『選挙で選ばれたのだから、自分の好きにする』と言ってのけ、完全に法を無視する為政者は歴史上初めてではないか」(菅野氏)

 内閣総理大臣が法を破って権力を振るう。法治の崩壊。学者や学問のみならず、全ての市民にとっての危機である。

 10月11日。菅野氏のハンストとは別途、首相官邸前で抗議集会を開いた団体が、菅野氏にマイクを渡した。

 「今回の学術会議の任命回避は、6名を任命拒否したことが非合法なだけではなく、99名を任命したことも非合法です。学術会議に内閣総理大臣が持っている人事権は、一方的な人事権。推薦されたものをただただ判子をついて認めるという権限しか認められていません。99名が任命されたことも6名が任命拒否したことも、内閣総理大臣の裁量が働いている段階で、もはやそれは全て非合法なんです」(菅野氏)

 「(滝川事件で)戦前の学者・学生は戦ったんです。しかしどうですか、みなさん。学者、戦ってますか? 戦ってるの、皆さんだけじゃないですか。学生、何も戦ってない。たまにここに来てしょうもないスピーチして帰るだけじゃないですか。何も戦ってない。何も戦わず、綺麗事並べて、法律を守ろうとしない、法律を守るどころかそれを破ってもオレたちは選挙で選ばれたから当然だと言いのける無頼漢に、対峙できると思いますか」(同)

 ここに、菅野氏がハンストという手法を選んだ理由がある。菅氏のような「無頼漢」に対して、もはや言論で戦う云々という段階ではないのではないか、というわけだ。ただし、菅野氏は人々にハンストという手法は勧めなかった。

 「ぼくみたいに自分の身体を傷つけてハンストしろとは言いません。しかしここに来て戦おうとしている皆さん、ぜひ自分の家、自分の職場、自分の学校に戻ったら、それぞれの持ち場で戦ってください。この戦いは議会制民主主義を守り抜く戦いです。ぜひ勝ちましょう」(同)

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筆者

藤倉善郎

藤倉善郎(ふじくら・よしろう) ジャーナリスト

1974年生まれ。大学在学中に自己啓発問題を取材。中退後、ジャーナリストに。主にカルト集団の問題や被害を取材し、2009年にニュースサイト『やや日刊カルト新聞』を創刊。現在9名の記者陣で活動する。幸福の科学の一般公開施設に取材に入ったことが建造物侵入罪にあたるとされ、現在、刑事被告人。著書『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島SUGOI文庫)。