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バレット最高裁判事の就任で、アメリカ社会は数十年前へと逆行するのか

田村明子 ノンフィクションライター、翻訳家

 いよいよ米大統領選を1週間後に控えた10月27日、トランプ大統領が連邦最高裁判所判事に指名したエイミー・コニー・バレットの承認が、米上院議会の投票によって可決された。

 RBGの愛称で国民に親しまれ、27年間、連邦最高裁判事だったルース・ベーダー・ギンズバーグ氏が癌で死去したのが9月18日。「自分の後任は、次の大統領就任後まで決定しないで欲しい」というギンズバーグ判事の遺言も空しく、トランプ大統領はそのわずか8日後の9月26日にバレット氏を指名した。そして上院議会で多数派を占める共和党議員たちは、驚くばかりのスピードでバレット氏を承認したのである。

トランプ大統領(左)から最高裁判事の指名を受けたバレット氏=2020年9月26日、撮影・ランハム裕子 
トランプ大統領(左)から連邦最高裁判事の指名を受けたエイミー・コニー・バレット氏=2020年9月26日、撮影・ランハム裕子

 予想されていたとはいえ、これが現実になってみると、筆者の40年以上にわたる在米生活の中でも、現代のアメリカ社会で如何に異常事態が起きているのかを実感させられる。

同僚たちからの嘆願書

連邦最高裁判事エイミー・コニー・バレットの就任は、アメリカ社会の「希望」「進歩」「正義」の象徴になるのか  Phil Pasquini/Shutterstock.comエイミー・コニー・バレット氏の連邦最高裁判事就任は、アメリカ社会の「希望」「進歩」「正義」の象徴になるのか Phil Pasquini/Shutterstock.com

 バレット氏の指名は、最初から米国を真っ二つに分ける火種だった。

 10月10日、バレット氏が教鞭をとっていたノートルダム大学の教授たち88人が、元同僚であるバレット氏本人に向けてこの指名の公聴会を大統領選後まで延期させる嘆願書を、オープンレター(公開状)として公表した。

 その翌日の10月11日には、米国の弁護士、判事、大学教授、ロースクールの学生など、合計6056人の法律関係者が、医療保険制度廃止の危機などを理由に、上院議会にバレット氏の承認を否決するようオープンレターを出している。この文書には、アラバマ、アラスカ、テネシー、テキサスなど圧倒的に共和党が強い州からの署名も含め、全部で238ページに及んでいる。

 ノートルダム大学の教授たちがバレット氏に向けたオープンレターには、まず彼女が指名を受けたことを祝福した上で、大統領選挙が事実上すでに始まっていることを最も大きな理由として挙げている。10月10日の時点で、郵便投票、不在者投票などによってすでに700万人の国民が投票を済ませているのだ。

 二つ目の理由は、ギンズバーグ判事の遺言だ。バレット氏は指名式の際に、ギンズバーグ判事の偉業を讃えているが、彼女に本当の敬意を表する気があるのなら、ギンズバーグ判事の遺言を尊重して欲しい、ということだ。

 さらに彼女の指名は、

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