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縄張りを越えろ――記者とは「野蛮」な稼業のはずだった

[2]権力が「報道倫理の厳守」を申し渡す倒錯した時代に

阿部岳 沖縄タイムス記者

福島と沖縄――国家の繁栄のために原発と基地という迷惑施設を押しつけられている「苦渋の地」で今、何が起きているのか。政府や行政を監視する役割を担うメディアは、その機能を果たしているのか。権力におもねらない現地在住の2人の新聞記者が「ジャーナリズムの現場」をリレーエッセーで綴ります。

第1回の記事はこちら(↓)

 沖縄から来た身には夜の冷え込みがこたえる。3月の福島。民宿の布団にくるまってスマホを眺めていると、ツイッターにダイレクトメールが届いた。朝日新聞記者の三浦英之さんからだ。「明日の会見、出席したらどうです?」。最初は何のことだか分からなかった。

 直後、別の記者からもメールが来た。翌日の2020年3月14日、安倍晋三首相が新型コロナウイルス対策について会見を開くのだという。「でも、急に出席と言われても……」。正直に言って気後れした。地方紙、沖縄タイムスの記者で、東京勤務の経験もない私にとって、「官邸での首相会見」というのは全く別世界の行事だった。

 ただ、ちょうどその日に帰りの羽田発那覇行き最終便を予約していて、直前の時間帯に首相会見が設定された。こんな偶然は二度とないだろう。それに、同じ年生まれの三浦さんに腰が引けているところを見せるのは格好悪い。「夜の飛行機に間に合うか、そもそも急に入れるか。ちょっと探ってみる」と返す。背中を押され、調べ始めた。

 沖縄タイムスは他の多くの地方紙と同様、内閣記者会(官邸記者クラブ)に常駐はしていないが、加盟はしている。記者証がなくても「取材者等届」を官邸に提出すれば首相会見にも出席できることが、当日の朝になって判明した。

 ただし、提出方法はこの時代なのにファクスに限定されている。この日は土曜日で、官邸報道室も電話に出ない。届けの書式を他社の記者から入手し、さらに民宿のファクスを借りて、何とか出発時間ぎりぎりに提出することができた。

 この間、三浦さんに誘われ、休みを取って、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から9年を迎えた3月11日前後の福島を訪ねていた。滞在最終日の14日は、原発周辺の区間で運行を再開する常磐線の取材。特急一番列車を迎えるセレモニーの会場から、三浦さんにメールを送った。

常磐線の運行が再開された2020年3月14日、双葉駅で列車を出迎える人たち=福島県双葉町、筆者撮影拡大常磐線の運行が再開された2020年3月14日、双葉駅で列車を出迎える人たち=福島県双葉町、撮影・筆者

 「首相会見、入る手続きしました。アドバイスありがとう。いろいろ可視化に挑戦します」。三浦さんからはこう返信があった。「うん、できたら質問を」「ここ、勝負どころです。頑張って下さい」。私は「もちろん」と返した。

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筆者

阿部岳

阿部岳(あべ・たかし) 沖縄タイムス記者

1974年、東京都生まれ。名護市辺野古の新基地建設や差別の問題を中心に取材する。東村高江のヘリパッド建設を追った『ルポ沖縄 国家の暴力――米軍新基地建設と「高江165日」の真実』(朝日新聞出版)で第6回日隅一雄・情報流通促進賞奨励賞。他の著書に『観光再生――「テロ」からの出発』(沖縄タイムス社)、共著に『沖縄・基地白書――米軍と隣り合う日々』(高文研)