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[47]年末の貧困危機、派遣村より大事なことは?

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

 「この年末年始には、年越し派遣村のような取り組みをするのですか」と、報道関係者から質問される機会が増えてきた。

 コロナ禍の第三波が日本列島を襲い、経済の疲弊と雇用の悪化が長期化する中、生活に困窮し、新たに住まいを失う人が増加しつつある。

 東京・池袋でホームレス支援を続けるNPO法人TENOHASIが定期的に実施している炊き出しの場では、10月以降、通常時の1.5倍にあたる約270人が集まるようになっている。都内の他地域の炊き出し現場でも同様の傾向にあると聞く。

 私たち、都内の生活困窮者支援団体の関係者は、最悪の場合、この冬にホームレス化する生活困窮者が急増するという事態が発生することも想定し、年末年始の支援体制について、すでに協議を始めている。

 だが、コロナの感染リスクを考慮すると、2008年~2009年の「年越し派遣村」のような宿泊を伴う大規模な相談会は、実施が困難であると言わざるをえない。どのような形での支援なら可能なのか、現在、検討を進めているところである。

生活困窮者の年末年始支援に関する質問を政府や自治体にもぶつけてほしい

 貧困の危機が迫ると、民間の支援団体の活動に注目が集まるのは、自然なことなのかもしれない。

 しかし、メディア関係者の方々にお願いしたいのは、「この年末年始の対策をどうするのか」という同じ質問を政府や自治体の担当者にもぶつけてほしいということだ。

 菅義偉首相は、「まずは、自分でやってみる。自分でできることは基本的には自分でやる、自分ができなくなったら家族とかあるいは地域で協力してもらう、それできなかったら必ず国が守ってくれる」という「自助、共助、公助」の3段階論を好んで主張しているが、私たち民間の支援者が「共助」の活動を進めているのは、目の前で困窮している人を支えるためであって、「公助」の防波堤になるためではない。

 実際、私たちは今春以降、民間での緊急支援活動を展開しながら、政府に対して何度も貧困対策の強化を要望してきた。

 メディア関係者は、「公助」を「自助」や「共助」の影に隠そうとする動きに加担することなく、人々の住まいと暮らしを守るという公的な責任を政治が果たしているのか、という視点を持って、貧困をめぐる報道に努めてほしいと願っている。

支援団体が住宅支援の拡充を求める緊急要望書

 幸い、冬が近づくにつれ、希望の持てる動きも出てきている。

私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」は、11月19日、住居確保給付金の支給期間の延長等、住宅支援の拡充を求める緊急要請書を厚生労働省に提出した。

厚生労働省への申し入れ=11月19日

 住居確保給付金は、失業や減収により家賃の支払いが困難になった人に、自治体が一定額を上限に家賃を補助する制度である。昨年度は年間5000件程度の利用しかなかったが、今年4月以降、支給決定件数が急増し、9月までの支給決定件数は約10万4000件に上っている。

 しかし、この給付金の支給期間は原則3カ月、最大でも9カ月となっている。そのため、12月以降、支援がストップして、住まいを失う人が続出することが懸念されている。

 私たちは9月25日にも、住居確保給付金の支給期間の延長を求める申し入れをおこなったが、その際、厚生労働省の担当者からは明確な回答がなかった。

 その後、野党だけではなく、与党からも給付金の支給期間の延長を求める声が相次いだ。

 公明党の新型コロナウイルス感染症対策本部と政務調査会は10月27日、首相官邸で菅義偉首相に面会し、感染防止と社会・経済活動の両立に向けた今後の支援策に関する提言を手渡した。

 この中で、住居確保給付金についても支給期間の延長を11月中に決定するよう要請した。

 自民党の賃貸住宅対策議員連盟(ちんたい議連)が11月12日に開催した総会でも、

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