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IOC会長の来日と国内の感染急拡大 東京五輪の理想と現実のかい離とは

増島みどり スポーツライター

国立競技場を視察し、記者の質問に答えるIOCのバッハ会長=2020年11月17日、東京都新宿区、代表撮影

帰国1週間後、「恋する選手村」の動画公開

 11月24日、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が、同18日までの日本滞在期間中に撮影した動画を公開した。同会長は来日中、東京・晴海に建設された選手村を視察し、「かつてない最高の選手村だ。(レインボーブリッジなど)あの夜景にきっと恋をするだろう」と絶賛。動画でも「恋する選手村」の景色をクローズアップしながら、アスリートたちに「9カ月後に皆さんもこのすばらしい景色を見ることになります。選手村での経験は、一生忘れることのできない思い出となるでしょう。五輪へ準備してハードな練習をして下さい」と、満面の笑みを浮かべてメッセージを送っている。

 15日に、チャーター便で来日した同会長は、菅義偉首相、小池百合子・東京都知事、組織委員会・森喜朗会長と続けて会談を行い、安倍晋三・前首相に対してオリンピックムーブメントに貢献した功績を称える「オリンピックオーダー」を授与するなど、分単位のスケジュールをこなした。

 選手村、国立競技場を視察し、予定にはなかったメディアへの取材に対応して施設の素晴らしさを強調。国内に「ご安心下さい、オリンピックは必ず開催します。政府、都、組織委員会、スポーツ界はみな、強い意志で結束している」と発信した。ところが、滞在中に国内の感染者が急増し、会長が離日した18日は、過去最多の一日2000人を超える新型コロナウイルスの感染者が記録された。来日中、IOCは「五輪の聖火はトンネルの先の明かりになる」(バッハ会長のコメント)と、開催をアピールする表現を好んで使った。一方、IOCが自信たっぷりに主張すればするほど、感染拡大で五輪開催への懐疑心や不安は一層募る。リスクを選んでまで来日した彼らの思惑も、逆風にさらされる結果となってしまった。

唐突に表明されたワクチン接種とコスト負担に透けるあせり

 11月上旬、IOC委員でもある渡辺守成FIG(国際体操連盟)会長が主導して行われた「友情と絆の大会」は、選手、関係者らを感染者がいないと確認した状態で隔離する「バブル方式」で実施され、成功を収めた。米国、中国、ロシアの選手たちが母国で繰り返し検査を行ったうえで来日し、日本でも試合と練習以外は隔離が続いた。ただ1競技で約80人によるバブルは成功しても、これが1万人規模、国も観客も関係者も多種多様となった大会にそのまま適用するのは難しいだろう。

 IOCは今回、世界的には感染を抑え込んできた日本の国民感情に配慮して、「選手へのワクチン接種を推奨し、日本の皆さん、医療機関への負担をかけないよう約束する。もちろん接種しなければ参加できないのではなく、あくまでも推奨するものだ」(会長)と会見で表明。年内にも米国や英国で接種が可能になると見込まれるワクチンについて、各国での優先順位を尊重したうえで、選手に接種を推奨するとした。会見で突如明かされたワクチン接種の背景を、関係者は「(ワクチン接種の表明は)日本に対して、いかに敬意を表し、開催に感謝しているかを示す上で、重要な儀礼と考えたようだ」と分析する。バッハ会長は「各国NOC(国のオリンピック委員会、日本ならJOC)と相談の上、費用はIOCが負担する」とまで約束した。

 良いニュースに聞こえるが、理想と現実は異なる。ひとつは、

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