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英国で接種が始まった新型コロナワクチン。日本への導入は慎重にすべき理由

効果はきわめて限定的。大量廃棄した10年前を思い出せ

岡田幹治 ジャーナリスト

実用化後に重い副作用が見つかることも

 このようなワクチンでは、仮に接種者の1%にでも重い副作用が出れば、ワクチン接種がもたらす恩恵より被害の方が大きくなる。ファイザーもモデルナも「現時点では深刻な副作用は確認されていない」と発表しているが、それは約2万人の接種者を短期間観察した結果にすぎない。

 いまは緊急時ということで、その程度の治験でも承認されるが、重い副作用はワクチンが実用化され、何百万人にも接種されてから判明することが少なくない。しかもファイザーやモデルナのワクチンは従来にない新タイプのもので、予想もしない副作用が起きる可能性があるから、慎重な見極めが必要だ。

 日本は欧米諸国に比べ100万人当たりの感染者数も死者数も桁違いに少なく、ワクチンの必要性は差し迫ったものではない。そうした状況を踏まえて川村孝・京都大学名誉教授は「欧米などの状況をじっくり見極めてから、日本人が打つべきかどうか判断したい」と述べている(「新型コロナウイルス感染症に関する論考(続編)」11月20日、12月1日修正)。

 川村氏は2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)以来、今春まで京都大学で感染症対応の指揮をとってきた疫学(疫病流行学)の専門家だ。こうした専門家の意見に、政府は耳を傾けるべきだ。

 川村氏によれば、新型コロナの感染者がインフルエンザと同じように寒冷期に増加するのは予想されたことだ。新型コロナは3~6月の「第1波」の後、6~7月から「第2波」が始まり、猛暑の影響で8~10月は落ち着いていたが、気温の低下とともに10月末から増加し始めた(川村氏によれば、メディアが「第3波」と呼んでいるのは第2波の延長)。第2波は来年3月ごろまでにいったん収束し、その後は秋からクラスター(感染者集団)が発生しだし、インフルエンザと同じように冬に流行するだろうとみている。

 この見方によれば、政府が輸入ワクチンの接種開始をめざしている来春は、新型コロナの第2波が収束しているころになる。

10年前の新型インフルエンザでは

 前のめりのワクチン確保がワクチンの大量廃棄を生んだのが、2009~10年に起きた「新型インフルエンザ・パンデミック」だ。ここで、その経過を振り返ってみよう。

 09年4月、豚インフルエンザ(後に新型インフルエンザに改称)のヒトへの感染がメキシコと米国で確認され、感染が多くの国へ広がった。当初、致死率が高いと誤って報道されたことが問題を大きくした。

 世界保健機関(WHO)は4月28日に警戒段階を「フェーズ4」(発症が拡大している)に引き上げ、6月11日にはパンデミックを意味する最高段階の「フェーズ6」(世界の2地域以上で爆発的に発症している)に引き上げた。

 警戒段階の判断基準から病原性の強さや致死率の高さを外し、流行の状況だけで判断するように改めたうえでの段階の引き上げだった。

 WHOは新型インフルエンザについて「感染者のほとんどは症状が軽く、治療なしで1週間以内に回復」するとウェブサイトに記載していたが、世界の主要メディアは1918年のスペイン風邪や、2002年のSARSといった深刻な感染症を引き合いに出して恐怖をあおった。

拡大felipe caparros/shutterstock.com


筆者

岡田幹治

岡田幹治(おかだ・もとはる) ジャーナリスト

1940年、新潟県高田市(現・上越市)生まれ。一橋大学社会学部卒業。朝日新聞社でワシントン特派員、論説委員などを務めて定年退社。『週刊金曜日』編集長の後、フリーに。近著に『香害 そのニオイから身を守るには』(金曜日)、『ミツバチ大量死は警告する』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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