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[48]コロナ禍の年末、生活保護行政に変化の兆し

必要な時に遠慮なく使える「普通」の制度に

稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

国会で生活保護制度の問題が取り上げられ、風向き変わる

 風向きが変わったのは、今年6月、この問題が国会で取り上げられたことがきっかけだった。

 6月15日、田村智子議員(日本共産党)が参議院決算委員会で、過去に一部の政党が生活保護バッシングを行ったことが生活保護利用への心理的なハードルを上げていると指摘し、公的扶助制度の積極的活用を呼びかけているドイツに見習って、安倍晋三首相(当時)が率先して制度の利用を呼びかけてほしいと要請したのである。

 安倍首相はこれに対して、「生活保護に攻撃的な言質を弄しているのは、自民党ではない」と反論しながらも、「文化的な生活をおくる権利があるので、ためらわずに(生活保護を)申請してほしい。われわれもさまざまな機関を活用して国民に働きかけていきたい」と、珍しく明瞭な答弁を行った。

 この国会でのやりとりを受ける形で、厚生労働省はホームページ上にアップしている「生活を支えるための支援のご案内」というパンフレットを一部改訂した。

 パンフレットの生活保護に関するページに、「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずに自治体にご相談ください」という文言が新たに追加されたのである。

 これは、政府の姿勢の変化を示すものであったが、30ページ以上あるPDFの1ページの記載が変更されたに過ぎず、ホームページを閲覧する人にわかりやすく広報をするものではなかった。

 その後も、定期的に電話相談会を開催している法律家のグループや、全国の40団体以上が集まる「新型コロナ災害緊急アクション」は、生活保護に関する広報の強化を厚生労働省に要望してきた。

 こうした度重なる要請が今回の方針転換に影響を与えたのは間違いない。

 ただ、「国民の権利」という言葉からは、外国人が排除されているという問題がある。現在、コロナ禍の影響で外国人の生活困窮は非常に深刻な状況にあるが、現行の制度では生活保護を利用できるのは一部の在留資格を持つ外国人に限定されており、その利用も権利ではなく恩恵とされている。厚生労働省には、困窮する外国人が活用できるセーフティーネットをどう整備するのか、という課題にもぜひ取り組んでほしいと願っている。

 厚生労働省が生活保護制度の積極的広報を始めたというニュースは、SNS上で話題になったが、広報を見た人が役所の窓口まで行って、きちんと対応をしてくれるのか、という不安の声も一部に出ていた。

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筆者

稲葉剛

稲葉剛(いなば・つよし) 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者の支援活動に関わる。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し、2014年まで理事長を務める。2014年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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