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年末年始のカロリー過剰摂取に効果的 沖縄の味噌汁でダイエットはいかが?

本土とはひと味違う沖縄のレシピから考えた歴史のこと、健康のこと……

山本章子 琉球大学准教授

 年末年始は、ごちそうを食べる機会が増える。コロナ感染対応でクリスマスパーティーや忘年会、新年会、親戚の集まりの自粛が呼びかけられているが、一切何もしなかった人は少なかったのではないか。私の住む沖縄県も、現実的な線として、「会合は4人以下、2時間以内、そして夜10時までに解散」を呼びかけた。

 とはいえ、大晦日には早めの初詣をする参拝客で沖縄を含め全国各地の寺社が混雑し、元旦の首里城には初日の出を見ようとする人々が大勢集まった。12月31日には東京都で過去最多の1337人、沖縄県で12月最多の58人のコロナ感染者が確認されても、日本人は年末年始の習慣を変えられなかったようだ。参拝をすませて年越しそばで温まり、初日の出を見て華やかなおせち料理とお雑煮を食べ、新年を祝った人は少なくないのではないか。

ダイエットの心強い味方

 ステイホーム、オンライン会議・授業、自粛と外に出られなかった2020年は、運動不足の一年だった。そこへ年末年始のごちそうだ。そばに添える天ぷら。お重に入った海老や数の子、いくら、ローストビーフ。ついいくつも食べてしまうお餅。そして、お屠蘇をはじめとした各種のお酒。高カロリー、高コレステロールの品々のオンパレードである。今年はコロナ禍で高級おせちがよく売れたともいう。

 つまり、年末年始に多くのみなさんは太ったのだ。

 そこで本稿では、年末年始の集まりの合間にできるダイエットの心強い味方を紹介したい。それは何か?

 沖縄の味噌汁である。

筆者がつくった沖縄の味噌汁(山本章子撮影)

添え物ではない沖縄の味噌汁

 沖縄の味噌汁は食事の添え物ではない。堂々たる主役である。

 食堂で「味噌汁!」と注文すると、丼いっぱいになみなみとつがれた味噌汁と、ご飯、さばの塩焼きやひじき、おからなどの小鉢が運ばれてくる。いうなれば、味噌汁定食である。値段は600円台が平均。

 具として、白菜、キャベツ、レタス、わかめ、もやし、小松菜、にんじんなど、「今日はこの野菜が安かったのか」と推察される野菜が、あふれんばかりに入っている。それから島豆腐。本土のものと比べて、大豆の味が濃く、かたくてずっしり重たいのが特徴だ。肉は豚の三枚肉が入っていることもあるが、たいていは「ポーク」。本土では「スパム」と呼ばれている、ランチョンミートだ。

 呼び方が沖縄と本土で異なるのは、沖縄では、デンマークのチューリップ社が製造する「ポークランチョンミート」缶の流通量が多く、本土では、米ホーメル社の「スパム」缶が主流だからだろう。1945年から72年まで沖縄を占領統治した米軍が、軍の携行食であるポーク缶を、食糧難の沖縄の人々に大量に払い下げたことで、沖縄の食文化にポークが根づいた。

 沖縄の味噌汁に欠かせないのが卵だ。文字どおり丸ごと一個入っている。卵はポーチドエッグ状のお店もあれば、生卵のお店もある。後者の場合は、大量の熱々の味噌汁の温度を下げる意味合いがあると思われる。

 味噌は、白味噌のお店、赤味噌のお店の両方がある。一年中気温と湿度が高い沖縄の気候は味噌づくりに向いており、琉球王国時代から味噌を製造しているお店がいまでも残っているが、白味噌、赤味噌、合わせ味噌の各種を作っている。沖縄は〇〇味噌という決まりは特にないようだ。

 ちなみに、2016年2月に放送されたNHK番組「ブラタモリ」で、首里城近くの味噌工場(一般非公開)にて、タモリさんがおいしいと何度もつぶやきながら、きゅうりに味噌をつけて食べる場面がある。色合いから見て、玉那覇味噌醤油の「王朝みそ」に違いないと思われるが、これが本当においしい。首里の店舗だけではなく、サンエー那覇メインプレイスなどの大型ショッピングモールでも買えるので、機会があれば買い求めてみてほしい。

新年のごちそう・イナムドゥチとピーナツバター

 沖縄で、味噌汁が安くてお腹のふくれる庶民の味方である歴史は、そう長くはない。琉球王国時代、汁物は祝いの席のごちそうだったのだ。その代表格が、「イナムドゥチ」と呼ばれる沖縄の豚汁だ。

 イナムドゥチは「猪もどき」という意味で、猪の肉の代わりに豚肉を使って白味噌で味つけした味噌汁である。豚の三枚肉や椎茸、かまぼこ、こんにゃくなど具だくさんで、地域によっては卵も入っている。砂糖を入れるので甘いのが特徴だ。

 琉球王国時代、砂糖は貴重な高級品だった。そのため、当時の宮廷料理であるイナムドゥチには、砂糖が入っている。

 現在でも、正月やお祝いごとに食べるめでたい一品だ。ちなみに、沖縄の正月は1月1日ではない。中国の春節にあたる旧正月(2021年は2月12日)が本当の正月で、いまでも正式にお祝いするのはこちらの方だ。

 学校給食には、イナムドゥチが定期的に登場する。クラス中でジャンケンしておかわり争奪戦をする、人気メニューになっている。あまじょっぱくて味が濃いので、地元の若者いわく、「イマムドゥチを食べるとき、白ご飯以外を一緒に食べるのは邪道」

 三枚肉をポークで代用することはないが、砂糖の代わりにピーナッツバターを入れるのが、現在では一般化している。お味はというと、素晴らしくおいしい。みんな大好きだ。私ももちろん好き。

 これもまた、米軍占領統治の影響である。かつては琉球王国の宮廷料理で、いまや「おばあの味」であるイナムドゥチの隠し味がピーナッツバターとは。この奇妙さが、戦後27年間米軍の占領下におかれるなかで、沖縄の文化がどれだけ変わってしまったかを象徴しているように思う。

それぞれの家庭の味がある中身汁

 味噌を使わない汁物も紹介しておこう。

 まずは「中身汁」。沖縄の郷土料理で、読んで字のごとし豚の中身、つまり内臓を使った汁物だ。もつ鍋と一緒にしてはいけない。柔らかい大腸・小腸や歯ごたえのある胃の部分をていねいに洗って処理し、何度も下茹でしてから使うので、とても上品な味わいだ。

 昔は、各家庭で島豆腐を作っていたので、余りもののおからを使って中身をもみ洗いし、臭いや汚れ、余分な脂を落としたのだという。現在では小麦粉を使ってゴシゴシ洗うが、大量の中身を下処理する精肉店では、洗濯機で洗うところが多いそうだ。中身は弾力があるので、洗濯機に入れてもちぎれる心配がないとか。

 鰹節を使ったあっさりとしたスープですまし汁のように仕立て、お好みでショウガやネギを加えて食べる。しいたけのだしをきかせて作ることもある。こちらも主に正月に作られ、ごちそうとして家族や親戚一同に振舞われる。家によって味が違うので、「正月に親戚の家の中身汁を食べ回るのが楽しみ」という地元の若者もいる。

 1972年に沖縄が日本に復帰し、本土の年越しそばの風習が沖縄に入ってくると、年越しそば代わりに、中身汁に沖縄風のそばを加えた「中身そば」が食べられるようになった。現在では、三枚肉そばも食べられている。

新年を祝うシーサー Artem Pachkovskyi/shutterstock.com

正月はおせちの代わりに「オードブル」

 ちなみに、沖縄には年越しそばだけではなく、おせちとお雑煮の習慣も本来はない。いまも正月には、おせちとお雑煮の代わりに「オードブル」といって、清明祭(シーミーさい。春のお墓参り)やお盆にも食べるごちそうをいただく。

 オードブルの内容は、ラフテーと呼ばれる豚三枚肉の角煮、揚げ豆腐、赤かまぼこ、黄色いカステラかまぼこ、煮た昆布とこんにゃくとごぼう、田芋(ターンム)のから揚げ、魚の天ぷらが定番だ。ただし、かまぼこや昆布は最近の若者から敬遠されがちなため、代わりに鶏の唐揚げや海老フライ、ウインナーを入れることも多い。

 また、チムシンジという、豚のレバー(チム)を煎じ(シンジ)た汁物もある。豚レバーと一緒に野菜を煮込んだすまし汁で、沖縄では古くから病人への「クスイムン」(薬)として作られてきた。特に貧血によくきくという。うまく下処理した豚レバーで作れば臭みを感じないが、レバーが苦手な人向けに、味噌味で仕立てたチムシンジもある。

Kay_san/shutterstock.com

沖縄の味噌汁で三つのダイエット

 さて、今回注目したいのは、ごちそうのイナムドゥチや中身汁ではなく、日々食べる味噌汁の方である。これがダイエットの強力な助っ人になってくれるのだ。

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