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コロナ禍の真っ只中に大規模災害が発生したら……

古本尚樹 防災・危機管理アドバイザー

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、ついに首都圏に緊急事態宣言が発令された。そのなかで気になるのは、年末から年始にかけて、緊急地震速報が相次いで鳴ったことだ。日本付近で地震が比較的多く発生しているのである。

 26年前の1月17日は阪神・淡路大震災、10年前の3月11日は東日本大震災が発生した。この季節になると、我が国が災害多発国であることを改めて感じずにはいられない。

 自然災害が起きたら、国や自治体、企業、地域社会など様々な組織が連携してハード・ソフト両面から支援し、復興に動く。しかし、自然災害が新型コロナ禍のなかで発生したら、ヒト・モノ・カネの動きがより一層停滞し、通常の自然災害以上に難しい対応を迫られるだろう。

 感染拡大が続く今、大規模災害が発生した場合の対応について考えておくこと、準備しておくことは極めて重要だ。

 昨年の「7月豪雨」は熊本県を中心に九州に大きな被害をもたらした。新型コロナ禍のなかで発生した災害の実例として、その対応を整理しつつ課題を考えたい。

コロナ下の避難所設営訓練。高校の体育館で段ボール製の仕切りとベッドを組み立てる市職員=2020年11月15日、和歌山県海南市

高齢者の被害相次ぐ

 九州は近年、2016年の熊本地震から大規模災害が相次ぎ、2017年7月の「九州北部豪雨」では福岡県朝倉市等で被害が出た。

 昨年の「7月豪雨」では熊本県天草・芦北地方や球磨地方付近を中心に大規模な線状降水帯が発生。梅雨前線上に発生した低気圧の影響で極めて多量の水蒸気流入があったことに加え、上空への寒気流入の影響で大気の状態が非常に不安定となり、大雨特別警報が長く発令された。

 消防庁によれば82人の死者、全壊319棟等の被害が出た。人的被害の大きかった熊本県では死者65人の約7割が70歳以上だった。特別養護老人ホームが浸水被害を受け、多くの入所者らが犠牲になった。

 自力で避難できない要配慮者の避難が、最近の自然災害では大きな課題となっている。避難行動要支援者名簿を自治体を介して自主防災組織が管理する仕組みはあるが、この名簿には要配慮者の詳細な症状や必要な支援は記されていない。要配慮者を支える自主防災組織も高齢化しており、支援活動自体が危険を伴う。

コロナ禍と避難所

 こうした課題に加え、新型コロナへの感染を防ぐ対応も必要となった。避難所ではいわゆる3密回避のために、2メートル間隔にスペースを確保し、避難世帯ごとに仕切りを設けた。避難所では検温を実施し、マスクも配布した。熊本県人吉市の避難所では、発熱やせきが止まらない避難者を別部屋に移した。

熊本県人吉市の避難所。新型コロナウイルス感染防止のため住民同士が距離を約2メートル空けるようにしていた=2020年7月4日

 当初想定の避難所のキャパシティ(1500人程度)も、先述の3密回避のため半分程度の収容に制限され、別の避難所へ移動を余儀なくされる住民もいた。避難所が足りない場合に備えて行政が民間ホテル等を事前に確保したり、感染予防を優先して自宅での避難を促したりする必要もある。この時は真夏の猛暑下だった。衛生状態を良くして避難者の感染を防ぐ配慮が欠かせない。

 内閣府は各自治体に対し、コロナ禍での避難所について次のように通知している。➀せきエチケット、こまめな手洗いを徹底②洗剤を使って避難所の物品などを定期的に清掃し衛生環境を確保③避難所内では十分な換気に努め、十分な避難スペースを確保④発熱やせきなど症状が出た人専用スペースの確保⑤(コロナの)症状が出た人は可能な限り個室にし、専用トイレを確保することが望ましい。一般避難者とはゾーンや導線を分ける。

 自治体は非常食や水などの避難生活に必要な物資を備蓄しているが、マスク、消毒液、スリッパといった感染対策に必要な物資は不足しているところが多い。避難時にはこうした衛生用品を持参するのが賢明だ。

 指定避難所へ避難するのではなく、在宅での避難も考慮すべきである。先述のように自宅が浸水する恐れがある時や、地震で倒壊する危険がある時は、避けなければならない。自治体はホテル・旅館などの活用、国の研修所や宿泊施設等の利用、親戚や知人宅への避難を促すとともに、普段から住民に対して災害時の避難先について考えるよう注意喚起することが重要だ。

コロナ禍とボランティア

 一方、自宅療養者の避難はNPOなどボランティアとの連携が重要になるが、新型コロナ禍のなかではボランティアの活用は難しい。昨年の「7月豪雨」では、高齢者宅を中心とした土砂の片付け作業等のためボランティアを募集したものの、大規模な募集を避け、県内在住の者に限定した。

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