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【42】震度観測の充実による最大震度の変化

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

 昨年2020年は、幸いにも大きな地震が日本周辺で発生せず、最も大きな震度を観測したのは、3月13日に石川県能登地方で起きたM5.5の地震での震度5強だった。最大震度が5弱だった地震も6個しかなく、例年と比べ強い揺れの地震が少ない1年だった。熊本豪雨はあったものの、上陸した台風も無く、例年と比べ比較的自然災害が少なかった。

「大きな地震」が増えた背景に観測網の充実

2020年で最大震度を記録した石川県能登地方の地震で斜面が崩れた現場=2020年3月13日、石川県輪島市三井町
 さて、日本では、地震による地盤地表の揺れの強さを、震度階として気象庁が公表している。現在は、計測震度計により揺れを計測し、小数点以下1桁の計測震度を計算してそれを丸め、震度0、1、2、3、4、5弱、5強、6弱、6強、7の10段階で震度階を算出している。

 最初に震度7が観測されたのは、1949年に震度7を制定して46年も経った1995年兵庫県南部地震であり、その後、2004年新潟県中越地震、2011年東北地方太平洋沖地震、2016年熊本地震の前震と本震、2018年北海道胆振東部地震と、最大震度7を6度も観測した。90年代と2000年代に各1回、2010年代に4回ある。

 震度6弱以上の揺れも、1940年代、70年代、80年代に各1回なのに対し、90年代6回、2000年代27回、10年代26回となっている。このように、近年、大きな最大震度を観測する地震が急増していると感じる。実は、この背景には、震度観測網の充実がある。

震度観測の歴史と機械計測の始まり

 日本での体感による地震の観測は1873年1月に函館測候所で始まった。正式に地震観測が始まったのは、内務省地理局に東京気象台が創設された1875年であり、これが現在まで続く気象庁地震観測の始まりになる。

 1884年12月には、東京気象台が全国的な震度観測を始め、関谷清景がまとめた「地震報告心得」に基づいて、全国約600カ所から地震動の時刻, 地震動の性質, 震度等の報告を郵送で集約した。その後、東京気象台は、1887年に中央気象台に改称し、1889年に内務省地理局からも独立した。当時の震度は、「微震」・「弱震」・「強震」・「烈震」の4階級だった。

 1891年に濃尾地震(M8.0)が起き甚大な被害が発生したため、その後、多くの測候所に地震計が整備され、震度観測の報告も郵送から電報に変わった。1896年には、「微震(感覚ナシ)」、「弱震(震度弱キ方)」、「強震(震度弱キ方)」が追加されて7階級になり、0~6の数字を当てはめられた。さらに、1908年に震度階級に説明文が追加され現在とほぼ同じ震度階級となった。

 1936年に震度名称が改められ. 「微震」(震度1)と「軽震」(震度2)は人間の感覚、「弱震」(震度3)と「中震」(震度4)は室内の状況、「強震」(震度5)と「烈震」(震度6)は家屋の被害状況などから決めることが定められた。さらに、1948年福井地震をきっかけに、1949年に「激震」(震度7)が設けられた。震度7は、地震後の被害調査に基づいて倒壊率30%以上のエリアを指定するため、速報はできなかった。

 震度は長らく体感に基づいて定められていたが、1985年から震度の機械計測化の試験が始まり、1988年には計測震度が定められ、震度の機械観測が全国158カ所で試験的に行われた。そして、1991年に10カ所で計測震度計の運用が始まった。この時点での震度観測点数は全国約200点である。

 その後、計測震度計による震度観測に徐々に切り替えが進み、観測点数の増加が図られて1993年には300カ所に増加し、1994年にはすべての震度観測点で機械観測が可能になった。そして、1995年に第2世代の地震活動等総合監視システムEPOSの運用が始まり、全国を152地域に分類して地域ごとに震度を発表する体制が整った。

阪神・淡路大震災と観測点の急増

 まさにこのタイミングで阪神・淡路大震災が発生した。地震は、1995年1月17日5時46分に起きたが、最初に震度速報が発表されたのは6時4分だった。速報に要する時間が今とは大きく異なることに気づく。

 この時点では神戸と洲本の震度は入電されておらず最大震度は5(京都、彦根、豊岡)だった。その後、神戸海洋気象台から大阪管区気象台に無線電話で緊急連絡が入り、6時18分に神戸の震度6が追加され、さらに7時29分に洲本の震度6が追加された。震度7が発表されたのは、地震機動観測班による現地調査の中間報告が行われた1月20日であった。

 震度6の情報が入電されず、震度7の発表に3日を要するなど、激震地域の情報が早期に把握できなかったことは、初動対応を遅滞させ、震度速報の即時性が課題となった。また、震度5、6の中でも被害程度に幅があることから、震度の細分化の必要性も指摘された。

 この反省の下、震度7の計測化と震度5と6の二分化が行われ、

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