田中駿介(たなかしゅんすけ) 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻
1997年、北海道旭川市生まれ。かつて「土人部落」と呼ばれた地で中学時代を過ごし、社会問題に目覚める。高校時代、政治について考える勉強合宿を企画。専攻は政治学。慶大「小泉信三賞」、中央公論論文賞・優秀賞を受賞。twitter: @tanakashunsuk
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「無策で失われる命」を増やさぬよう、個人単位の現金給付を
菅義偉首相は今月4日、年頭の記者会見で、東京都と埼玉、千葉、神奈川3県を対象に、新型コロナウイルス対策の「特別措置法」に基づく「緊急事態宣言」の再発令を検討すると表明した。菅氏は、「より強いメッセージが必要」と呼びかけたが、必要なのは抽象的な「メッセージ」ではなく、具体的な「十分な補償」と「メンタルのケア」である。
菅氏は、これまで以上に「強いメッセージ」を出すことを宣言した。しかし、「強いメッセージ」すなわち「自粛」の要請のみで、感染症の拡大を止めることができるのだろうか。菅氏の会見からは感染拡大の責任を、一般市民とりわけ「夜の街」に押し付けたい意図が垣間見られた。
専門家の委員の方もいっていますけれども、例えば東京ですけど、6割、発生源が特定できない方がおります。その中で、大部分は飲食の関係することだろうと、専門委員の方がこういっております。
菅氏は、この期に及んで、「大部分は飲食」に関係している感染に限定されているという専門家の声のみを紹介している。しかし、首相自身述べているように、東京では感染経路を特定できない人が6割に及ぶ。また、12月31日の朝日新聞報道(注)によれば、経路を特定できた4割のうちの半数は同居者から感染しており、「大部分は飲食」の関係とする根拠は判然としない。
筆者は感染症に対して専門的な知識を有していないが、新型コロナウイルスそのものについて未だ解明されていない以上、様々な専門的見解から、何が正しいのかを選び取る「市民感覚」が必要だと考えている。
果たして飲食業に限定した対策を行うのみで、十分な感染症対策が行えるのか? 筆者は明確に「NO」だと考える。だとしたらなぜ、菅氏はこの期に及んで「飲食関係」による感染が大部分だと断定しようとしているのか。それは「緊急事態宣言」にともなう「十分な補償」を行うという政府の責任を果たしたくない